ファウスト・アドベンチャラーズ・ギルド ようこそ。地球を遊ぶ、冒険家ギルドへ

04 LIFESTYLE

素晴らしき野獣たちがピアノに再挑戦!
サントリーホールで襲いかかる試練の行くえ

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再び、華麗なる音楽の時間がやって来た。2011年11月、サントリーホールでのファウストらによるピアノコンサートは、その勇敢なチャレンジで拍手喝采を浴びた。そして今年、新たな挑戦者たちを加えて、同じく数々の著名な音楽家たちの殿堂であるサントリーホールのブルーローズを会場として、コンサートが開催された。タイトルは「BEAUTY AND THE FABULOUS BEASTS~美しきピアニストと素晴らしき野獣たちによる一夜限りの“夢”の競演~」
いよいよ幕が上がる。

日本屈指のコンサートホール、サントリーホール。
会場にはたくさんの花が贈られた。

第2回までの道のり

最初は「ド」の位置さえもわからない初心者集団だったファウストらが、サントリーホールでの演奏を成し遂げた前回。その挑戦は、多くの人の驚きと感動を呼んだ。
「初心者からスタートしたんでしょう? それをこんな短期間で…」
「会社を経営しながら、いつの間にこんなに練習したんだ」
「俺はとてもじゃないけれど、できないよ」
「ピアノなんて、無理無理」
「いや……でも、これは面白そうだ」
そんな反響が飛び交った前回の演奏後、もちまえの好奇心と挑戦精神に突き動かされて、新たなファウストたち、柳田東生、岩井陽介、佐藤茂、佐藤信也の4名がこのサントリーホールへの挑戦に加わった。引き続いての挑戦を決意したのは、堀主知ロバートと浅野則之。指導するのは、新世代のクラシックピアニストとして注目を集め、独自のピアノ習得プログラム「武村メソッド」※を引っ提げた、武村八重子である。一歩ビジネスの世界に戻れば、いずれもその業界でトップを走る経営者であるファウストの面々も、武村のピアノ指導の前ではまだまだ歩き始めたばかりの生徒たちだ。

武村メソッド…武村八重子の技術と経験をベースに、ピアノ演奏を脳科学の観点からとらえた理論に立脚し、独自に編み出されたピアノ習得プログラム。最初に、人間の能力ならぬ脳力を活性化することからスタートするのが特徴。音楽は脳の柔らかい幼児期に始めた方が有利というのが通説だが、裏を返せば、大人でも脳を柔らかい状態にし、脳力を鍛えてからスタートすれば効率的に習得できるというもの。

サントリーホールでピアノを弾く
ファウストな理由

当然プロのピアニストではない彼らが、なぜ一見何の得にもならないことに必死になって挑んでいるのか。コンサートにむけて練習に励んでいたころ、彼らはその理由を「クラシック曲のピアノ演奏は、“脳”を日常では使わないようところまで激しく使うんです。それで脳のキャパシティが増え、仕事の集中力や判断力、処理能力が向上するんですよ」と口々に語っている。「自分たちを追い込んで、途中で言い訳して逃げたりできないように、発表の場をサントリーホールにしているんです。そして最後に、こんなアマチュアの僕らの曲を聞きに来てくれる観客のみなさまを、本気で感動させてこそ、成功だと思っています。お客には喜んでいただく、ビジネスの鉄則と同じ。やるからには本気でやるのが経営者なんですよ」と、意気込みを語っている。

そうして彼らは、本業である企業経営の重責を果たしながら、忙しいスケジュールの合間を縫って、一年から半年の間、武村メソッドによる厳しい指導を受け、それぞれ練習に励んできたのだ。

コンサート当日

サントリーホールという大舞台に呑まれ

ついに訪れた1月30日の当日。仕上がりの不安と本番の緊張を抑えきれず、「少しでも練習しなくちゃ…」と昼過ぎから会場に足を運んだ面々は、自主練習とリハーサルを開始する。しかし、いざ本番を直前に控えた現場での練習は、思うようには指が動かない。「こんな大舞台で弾くのか」「だめだ、直前なのに全然間違っている」「やばい、もう手が震えてきた」
ビジネスでは数え切れないほどの困難を乗り切って来た彼ら。わかっていたつもりだが、いざ現場に臨むと想像とは全く違う。雰囲気に飲まれ、混乱をする生徒たちを前に、武村は、堂々と言いきった。
「大丈夫。リハーサルが上手くいかないときは、本番で上手くいくんです」
その言葉を支えに、彼らの表情も引き締まる。
「もう、やるしかない」
腹の据え方は板についている。

リハーサルに臨む素晴らしき野獣たち。

第1部

「日本」の美を纏う武村八重子のピアノ

緊張の極限にあるファウストらをよそに、第一部、武村八重子のピアノ演奏の幕が上がった。美しい振り袖に身を包んだ彼女は、冒頭、コンサートのコンセプトを語る。
「前回の私のコンサートの後、シークレットとして生徒さんたちの発表会をさせていただきました。でも、今年は違います。生徒さんたち……素晴らしき野獣たちは、私の共演者です。彼らの挑戦もまた、感動を与えてくれることと思います」
「教え子たちが、新たな挑戦をするということに刺激され、私も今回、いつもとは違うラインナップでお送りします」
一曲目は「ノクターンOP9-2」。彼女の代名詞とも言えるショパンの曲で始まった。続く、ベートーヴェンのピアノソナタ8番悲愴第一楽章は、昨年、堀がチャレンジした悲愴第二楽章に連なる曲だった。そして、日本を表現した曲を続けて六曲を演奏。“琴”の曲を元に作られた「六段の調」、「芸者ワルツ」「提灯ダンス」「ヨーイ!」「ゴンドラ」「東郷元帥マーチ」……いずれの楽譜も、ウィーンの楽友協会と、サントリーホール、そして武村しか持っていないという、幻のピアノ曲。決してピアノ演奏に向いているとは言えない振り袖姿で日本の精神を表現し、その和の音楽をピアノで表現しきった武村。魂を込めた演奏が、会場全体を包み感動を呼んで、第一部は幕を下ろした。

演奏はもちろん、トークでも観客を魅了する武村。艶やかながら、振袖姿での演奏は至難の業。最後は袖をまくって演奏に臨んだ。

客席でそれを見守るファウストたちは、感動しながらも近づいてくる自分の出番に、表情を硬くしていた。「レースより緊張するよ……」と笑う堀。

第2部

野獣たちの「自分との闘い」が始まる

休憩をはさんで第二部開始のベルが鳴る。素晴らしき野獣たちの出番だ。楽屋では、ステージのシミュレーションをしたり、ぎりぎりまで練習したり、脳を活性化させるためにチョコレートを食べたり……と、それぞれに準備を整える。そして、いよいよステージ裏へと移動すると円陣を組んで声を掛け合う。
「がんばりましょう!」

ファウストたちは、人前で、しかもサントリーホールで演奏するという事実を、重く受け止めて取り組んできた。それぞれが、せめて“ここまでのレベル”には達さなくては、観客にもサントリーホールにも失礼にあたる、という思いを抱いてきた。
もちろんコンサートは2年目のため、初めての者と2年目の者とで、自らに課した課題やプレッシャーには差があり、それと同様に、各々が抱く“ここまでのレベル”はまちまちなのだが、その自分との闘いに挑む覚悟には変わりがなかった。
いよいよ、素晴らしき野獣たちが闘いの舞台に姿を現す。

こうして、第二部の幕が上がった。

一か月前に曲変更して挑んだ大好きなジャズ

『枯葉』作曲:ジョゼフ・コズマ

先陣を切ったのは、柳田東生。オペラを習っており、音楽には日頃から慣れ親しんでいる彼は、前回のコンサートを見てすぐにメンバーに加わった。当初は、自分のテーマ曲だという『美しき青きドナウ』を練習してたが、なんと今年1月に入ってから「何かイメージが違う。曲を変えたい」と、ジョセフ・コズマの『枯葉』に曲目を変更するという英断?に出た。これには武村も他のメンバーも驚いたが「大丈夫。これで行く」と本人は決意を変えない。今日はリハーサルだけでは飽き足らず、2部開始5分前のギリギリまで、楽屋のピアノで何度も指の動きを確認していたが……。
そして演奏。丁寧な指運びで『枯葉』ならではの哀愁漂う世界を表現し、最後まで弾ききった。
安堵と賞賛の表情でステージに現れた武村に「一か月前に曲を変えて……本当に一番心配したんです。短期間でここまで仕上げた、その集中力はさすがです」と言われた柳田は、晴れやかな笑顔を見せた。「疲れました。くたくたです」とステージを後にした。
「いやあ、リハーサルの時はもっとうまく弾けたんだけどね。やはり緊張して思うように弾けませんでした。出来は60点といったところでしょうか。確かに直前の曲変更は無謀かとも思いましたが、大好きな曲なのでイメージは頭にありましたから。せっかくのサントリーホールですから、好きな曲を伸び伸び弾けて良かったですよ」

家族にさえ秘密を通して練習した努力のバッハ

『フーガプレリュード1番』(作曲:ヨハン・セバスチャン・バッハ)

続く佐藤茂。彼はレースの世界でもプロに混じって、勝負の世界に身を投じている。出番を待つ間は、緊張をしつつも笑顔を見せて、「レースの決勝前より緊張しているよ」と呟く。曲はバッハの『フーガ・プレリュード1番』。クラシック音楽やオペラ鑑賞を愛する彼にとっては、いつか弾きたかったピアノ。挑むのならこれ!という一番好きな曲。一方で最初は「実は、ヘ音記号というものも、今回のレッスンで初めて見たくらいなんですよね」というほど、演奏は素人からのスタートだった。
武村に促され、引き締まった顔でピアノの前に座る。流石は好きな曲、無事に完奏し、武村から「私のレッスンではとても頑張ってくれる一方、ご自宅では練習されたことがなかったのですが、お見事でした」と賞賛。「いつもの決戦より命がけでしたね。でもやっぱりピアノはいいですね。最高です!」。
佐藤は照れたような笑顔で舞台裏へと戻って来た。「決して満足の出来とは言えないけれど、最低限はクリアできたと思います。ただ、自宅で練習しなかったのは、会社でも家でもピアノを完全に内緒にしていたから。怠けていたのではありません(笑)。家族にも最近伝えたくらいで、今日は急きょ聞きに来てもらいました」。

無情の中盤から立ち直って

『ピアノ協奏曲第1番第2楽章「ロマンス」』(作曲:フレデリック・ショパン)

2回目の挑戦となる浅野則之の曲は、ショパンのピアノ協奏曲第1番第2楽章「ロマンス」。当初、「こんな大曲を選んで大丈夫なんですか?」と武村が心配したというが、本人たっての希望で選曲した。前回は『戦場のメリークリスマス』を弾ききり、自信をつけての再挑戦。
出だしは順調に進んだ演奏。しかし無情にも苦難は中盤に訪れる。次第に旋律が不安定になっていくと、次の瞬間、浅野の手がピタリと止まってしまった。ホールに無音の時間が流れる。舞台裏のモニターで見ていたメンバーと武村の間に緊張が走った。「がんばれ!浅野さん!がんばれ!」
全員がステージのすぐ裏であることも忘れ、声をおくる。本人には永遠にも思えた時間だったかもしれない。ここで、経営者として多くの困難を乗り越えてきた精神力が、浅野を救った。ふっと決意の表情を覗かせると、再び鍵盤に指を走らせ、その後は最後まで弾ききったのだ。
駆けつけるように浅野の傍へと歩む武村。「これは本当に難しい曲なんです。それに私もかつて、頭が真っ白になって、どうしてもそれ以上弾き進めることができなくなり、舞台を降りたことがあるんです。それを建てなおして最後まで弾ききったのは素晴らしいことです」と、武村も惜しみない拍手を送った。

一瞬の沈黙を置き、「難しすぎました」と絞り出した浅野は苦い顔をしてステージ後ろへと下がった。「一瞬、真っ白になっちゃった……」という浅野をメンバーは迎え入れその挑戦を賞賛した。
「あの瞬間は思い出したくないくらいですね。直前の自主練習などもしたのですが、全体として、練習が足りかなったようです。聞きに来てくださった方にも、他のメンバーにも、武村さんにも、申し訳なかった」

じっくり取り組んだ名曲を楽しく披露

『トロイメライ』(作曲:ロベルト・シューマン)

続く岩井陽介は、コンサートは今回が初だが、実は武村のレッスンは2011年秋頃から受け始めていた。選んだ曲はシューマンの「トロイメライ」。ステージでは武村の紹介が始まり、選んだ理由は……というと「楽譜がたった1ページなので、これなら自分でも集中して練習すれば演奏できると思ったからだそうです。そんな岩井さんですが、指の太さが難点で、演奏中に時折、鍵盤にハマってしまうことがあったんです」と、ジョーク混じりに紹介。会場がドッと沸くが、いざ、岩井が弾きはじめると丁寧な音色が響き始める。そのタイトル「夢」が表わす通り、岩井の夢の挑戦は成し遂げられた。
「最後のほうは、足がガタガタと震えはじめてどうなるかと思いましたが、こればかり練習してきましたから絶対に間違わずに弾ききろうとがんばりました。2ヶ所ほどミスしましたが、なんとか形になりましたでしょうか」と、一年以上をかけて仕上げた曲だけに、満足な表情を浮かべた。
「今練習している曲はドビュッシーの『月の光』です。とてもきれいな曲ですが、ものすごく難しいんですよ。でも、ピアノはほんとに楽しいですね。脳も活性化されるし、仕事にもいい刺激になります」

ミスをしない努力ではなく、観客を感動させる努力を

『ノクターン遺作レントコングランエスプレッシオーネ』(作曲:フレデリック・ショパン)

今回初出演、そしてメンバーの中で唯一、幼少期にピアノ経験のある佐藤信也。彼は前回のコンサートを見たが演奏に誘われても「絶対にやらないよ」と断っていた一人。だが、メンバーたちの熱い勧誘に心を動かされ武村の生徒に。曲は、武村の十八番でもあるというショパンの『ノクターン遺作レントコングランエスプレッシオーネ』。
佐藤は、これをみごと優雅に弾ききった。武村も納得の出来で、佐藤も「夢のサントリーホールで、ショパンを弾けて最高でした」と述べている。

実は当日は、佐藤の亡き父の誕生日であり、両親の結婚記念日でもあった。佐藤にとってそんな特別な思い入れを込めた演奏は、コンサートに招待した母と亡き父にとって、最高のプレゼントになったことは間違いない。

「当日は緊張して、リハーサルが全然ダメだったときはどうしようか途方に暮れましたが、武村先生に『ミスをしないように努力をするのではなく、観客に感動してもらうように努力するんです』と言われ、気が楽になったんです。本番では感情表現をいつも以上に表せて、ミスはあったけど足し引きして合計60点かな」。後日談ではあるが「聞きに来てくれていたお客さまから『僕もなにか挑戦しなくちゃと思いましたよ!』と言われたのも嬉しかった。それに僕の会社はイーラーニングを企業に提供しているので、僕や社員がこうした学習と成長を体現することは、仕事に厚みがでますね。目に見えませんが得るものは大きかったと感じています」

※佐藤信也のピアノ挑戦への思いは「日経電子版特集ファウスト魂」にて綴られている
http://ps.nikkei.co.jp/faust/interview/vol009.html

「2年目にしてはいい」では納得できない

『華麗なる大円舞曲』(作曲:フレデリック・ショパン)

ラストを飾るのは、堀主知ロバートだ。前回、ピアノ歴半年にも関わらずベートーヴェンのピアノソナタ8番悲愴第二楽章を演奏して見せた堀は、今回、ショパンの『華麗なる大円舞曲』に挑戦する。
武村は「前回もでしたが、堀さんの努力には感動させられます。こんなに努力する人は見たことがありません。私も見習わなくてはと思うくらいです」と紹介。「ただ本番が近付くにつれ、毎日同じ曲を自宅でも練習し続け、ご家族は苦労なさったと聞いていますが…」。にこやかながらも緊張の面持ちで舞台に上がった堀は、その壮大な音楽を弾きこなし、ラストに相応しい華やかさで締めくくった。

「レースをやってるので、相手と競うとか体を動かすとかの方が性には合っているけれど、ピアノの挑戦は自分との闘いで、これも同じくらい熱くなれますね」。演奏後はそう取り繕った堀だったが、自分の出来には全く満足していなかったと、後に述懐している。
「確かに1年目は大目に見てもらった部分があったかもしれないけれど、今年は、2年目にしてはすごいねとか、そういう言われ方は自分は納得できないんです。たくさんミスタッチしたし、曲の表現も解釈も何かも、もっとできたはずなのにって、どうにも悔しくて忘れられない反省が山ほどある。聞きに来てくれた皆さんには、サントリーホールの空気や、コンサートの雰囲気、周りの聴衆に助けられ、拍手をいただけて本当に感謝していますが……。とにかく次回に宿題をたくさんもらった演奏でしたね」

音楽の感動と、挑戦者の感動を

武村に呼びこまれ、舞台上に並んだファウストたちは、いずれも晴れ晴れとした表情に溢れていた。会場も温かい拍手でその勇気を称えていた。指導者として厳しくあたってきた武村も美しい笑顔を見せた。

「彼らは確かに音楽家としては素人です。しかし本物の音楽を聞く感動と、何もないゼロの状態からここまで作り上げることの感動は、決して相反するものではないと信じています。私たちはサントリーホールという舞台を決して軽んじてはいません。最高のホールと知っているからこそ、自分たちを奮い立たせてここまでやってきたのです。今日は、生徒たちは期待以上の演奏をしてくれて、私としては誇り高い、思い出深い一日になりました。そして、また次の大きな課題も見つかりました。これに懲りず、めげず、臆することなく、頑張っていきたいと思います」

それぞれが大きなものを学び、教訓を得て、新たな挑戦を決意した忘れられない一夜。魂を振るわす何かを求めて、彼らは再び名曲に挑む−−−−。

Data

「BEAUTY AND THE FABULOUS BEASTS~美しきピアニストと素晴らしき野獣たちによる一夜限りの“夢”の競演~」
開催日時:1月30日 19:00開演
開催場所:サントリーホール

Back Number

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