ファウスト・アドベンチャラーズ・ギルド ようこそ。地球を遊ぶ、冒険家ギルドへ

04 LIFESTYLE

Each Surfing Story
Vol.1
サーフィンが磨き上げる見極めのセンス

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大人のサーフィン熱、とでもいうような現象が
ここ数年、第一線で活躍する男たちの間で起きている。
忙しい仕事の合間を縫うように、早起きをし、海へと車を飛ばす。
その瞬間、彼らの心と体には、どのような光景が広がっているのだろう。

サーフィンを愛するファウストたちの物語をシリーズでお送りする本コーナー、
第一回は、ファウスト・サーフィンチームのキャプテンである
高下浩明(株式会社リステアホールディングス代表取締役兼CEO)をご紹介しよう。

“どんな理由があるにせよ、サ-フィンは続けた方がいい”
By Gerry Lopez
 サ-フィン界のレジェンドであり、ミスタ-・パイプラインと呼ばれたジェリ-・ロペスの言葉だ。

 兵庫県、神戸市――。
 16歳の時、思春期の真っ只中の少年は、ようやく“目覚め”の時を迎えた。自我を確立できるかもしれない“何か”を見付けることができたのである。
「それが、サ-フィンであり、バイクだったんです」

バリの東側にあるメジャーポイント、チャングビーチにて(2009年11月/ここから5カット)

 そして高校生の少年は、自由に転がせるバイクよりも自然条件に左右され、ままならないサ-フィンに徐々に傾倒していく。しかし、瀬戸内海に面する神戸に、ドキドキするような波はなかった。車を得ると週1回、深夜、神戸を出て、5時間以上かけて四国の生見海岸や海部河口、あるいは伊勢の国府の浜を目指した。四国の生見海岸は徳島県にあり、JPSA(日本サ-フィン連盟)の公式大会が開催されるなど、身震いするようないい波が立つことで有名なポイントだ。その海に、夜明けとともに入り、パドルをし過ぎて肩が上がらず身体中の筋肉がパンパンに張るほどサ-フィンをした。それが、彼にとって至福の時だった。
「若くて、時間もあったし、気合いを入れて海まで通っていた。根性でサ-フィンしていましたね」
 だが、少年から青年に成長した若者に転機が訪れる。24歳で独立し、婦人服専門店の事業を始めたのである。仕事は多忙を極め、徐々に海から離れて行った。社会に出て、仕事を成功させるため、あるいは仕事に集中するために誰もが1度は経験するサ-フィンとの別離だった。

鴨川で訪れた
高下の第2期サーフィンブーム

それから20年あまり経過した。
 高下浩明は事業家として大きく成長し、『リステア』というセレクトショップを成功させ、軌道に乗せた。多くのスタッフが仕事に関わり、事業は順調に推移し、自分の時間がようやく取れるようになってきた。そして、サ-フィンを、また始めた。休日になると一人で湘南に行っていたが、波のない日が多く、いつも混雑していた。
「ただ、海に入っている感じでした。それだけでも気持ちは良かったけど、なにか物足りなさは感じていましたね」
 そんな時、友人が声を掛けてくれた。
「鴨川にサ-フィンに行かない?」
 5年前、その言葉から高下のサ-フィンライフは一変していった。
「千葉の南房総にある鴨川に誘われたんですよ。それまで湘南しか行ったことがないし、千葉ってどうなの?って感じだったんです。でも、行ってみると驚きましたね。まず、波がいい。湘南とは波のサイズもパワ-もぜんぜん違う。しかも、すごく楽しかったんですよ。昔、こんな感じでサ-フィンしてたなぁっていう楽しさが甦ってきたんです。そこで、小川直久クンと出会った。彼はプロサ-ファ-で、毎日サ-フィンしている。六本木で仕事している自分のライフスタイルとは正反対なわけですよ。すごく刺激を受けましたね。そういう人との出会いや千葉の海の環境の良さに本当にハマって、くるったように海に通いました。週に2、3回、夜10時過ぎには寝て、夏だと朝3時過ぎぐらいに家を出て、5時ちょい前ぐらいに海に入る。8時には鴨川を出て、10時には六本木に戻って仕事をスタ-トさせる。そんな仕事との二重生活みたいなサ-フィンライフだけど、キツイとは、まったく思わなかったです。もう、海に行きたくて、仕方なかった。鴨川にベ-スを置いて、東京に仕事に行くことにしようかなと考えるぐらい完璧にハマリました」
 高下の第2期サ-フィンブ-ムは、まるで熱病にかかったような盛り上がりを見せた。そこまでサ-フィンに、再びハマったのには何か理由があったのだろうか。
「サ-フィンは、前日に波があるかないかだけチェックして、朝起きて眠かったら行かなければいいし、コンディションが良ければ行けばいい。自分中心に自由に動けるスポ-ツなんです。しかも、海に行けば誰かしら知っている人がいる。名前や何の職業か分からないけど、『や-』ってあいさつして、話をする。老若男女関係なく、みんな楽しめる。そんなスポ-ツって、なかなかないですよね」

恐怖を克服して波を攻める快感

 仕事以外は、サ-フィンがライフスタイルの中心だ。車もスポ-ツタイプの車の他にもう1台、サ-フィンのために大きなワゴン車を買った。行く時は「トリロジ-」というDVDを流し、その音楽を聞いてテンションを高めていく。車の中には、常用しているY. Uの6'0""、さらに6'5"、7'5"のボ-ド3本が入っている。波の状況は毎日、携帯サイトでチェックする。都会のド真ん中にいても波の状況が気になって仕方がない。プロではないが、サ-フィンへの姿勢は極めて真摯だ。

「今もイメトレしています。毎日ビデオを見て、こうするんだぁとか、いろいろ発見していますね。ただ、最近は頭にたたき込んで、いざ海に行ってやろうとしても、体力が落ちて来ているせいか、腰が重くなったり、身体が動かなかったりとか、そういうのが増えた(苦笑)。たぶん、あと10年もしたら、もっと動けなくなるだろうから、動けている今のうち徹底的にやろうと思っています」
 年齢を重ね大人になると、無理せず楽しむスタイルが主流になる。ガツガツと波に乗り、今日ですべてが終わりかのように突っ込んでいくのは、若く蒼いサ-ファ-の役割だ。しかし、高下は、「ギリギリ乗れるかどうかぐらいの波がいい」と、若手のように自分の限界をプッシュアップしている。ダブルサイズの波をダウン・ザ・ライン※することに闘争心を燃やす。サ-フィンにおいては、常にリ-ディングエッジに立っていたい気持ちを隠そうとしない。
「自分のサ-フィンは、エンジョイじゃないですね。ワイキキの波にロングでフラフラ乗るのもいいけど、ダブルに挑む緊張感の方が好きです。昨年、バリに小川クンらと行ったんですが、本当に波が凄かったんですよ。たまたま、チェックしたら頭半ぐらいのサイズでチュ-ブ巻いている。アウトでなく、パドルで行けるポイントだったし、幸いなことに誰もいない。『たぶん、大丈夫だから行く?』、みたいな話になって、入ったんです。そうしたら、いきなりダブルサイズの大きなセットが2発連続で入って来て、本当にヤバかった。なんとかアウトに出て、小川クンが『行くよ』って、テイクオフしたんだけど、ワイプアウト※している。パワ-ありすぎって感じなんです。そこで、自分も覚悟を決めましたね。たまたまセットが見えたので、もう必死でパドルをしたんです。で、無我夢中で『行こう!』って、立ったら立てた。ボ-ドが物凄いスピ-ドで降りて行って、自分の後ではチュ-ブがグリグリ巻いていた。もう、最高でしたね! 思わず声が出てしまいましたもん! 危険なスポ-ツなので無理は禁物ですけど、恐怖を克服して波を攻めるのは最高に楽しい瞬間ですね」

ダウン・ザ・ライン……サーフィンの理想的なライン。波の一番上から約1/3下にボードをセットし、ノーズを少し下に向けながら横に走ること。
ワイプアウト……波から落ちてしまうこと。

ライドか、ワイプアウトか。仕事とサーフィンに通ずる精神

 自らのサ-フィンライフを確立すると、サ-フィンに仕事がインスパイアされて、面白い発想が生まれた。2009年、夏には1ヵ月限定で店内にボ-ドなどをデコレ-トし、サ-フグッズを売るなどリステア・サ-フショップを立ち上げた。さらに、サ-ファ-ズナイトと称する1日限定のイベントも催した。プロ・サ-ファ-や関係者など、800人が集合した一大イベントになり、ファッション業界に強烈なインパクトを与えたと言われる。



上2カット:バリの埋立地にある最近話題のセランガンビーチでのライディング(2009年11月)

「サ-フィンと仕事って、相通じる部分があるんですよ。僕らは、商品の仕入を店頭で売る1年ぐらい前にやる。今が秋なら翌年の冬物の仕入をやるんです。先を読みつつ、例えば50万円のコ-トを100着買うのか、それとも10着程度にする のか。いろいろ考えて、ト-タルで何十億という買い付けをする。来年の流行を今、判断しないといけないんですけど、外すと当然超ヤバイ!! その判断が難しい。普通の神経じゃいられないから、最初はシャンパンを抜いて飲みながら決めていくくらい(笑)。でも、2時間ぐらいすると冷めて来て、オーダーを見直すんですよ。翌日、もう1度冷静になって見直して、最終決定する。リステアは、100%仕入でやっているから100%リスクなんです。今は、ほとんどのセレクトショップが自社で商品を作っている。その方が儲かるし、商品も3週間後には出せる。売れそうにないなら簡単に止められる。でも、リステアは、1年前に流行を察知し、仕入れていく。そこは、もう思い切りと根性ですよ。それはサ-フィンと同じ。大きな波だと乗るのか、止めるのか、自分で決めないといけない。しかも、瞬時に決めないといけない。乗ると決めたら恐怖感に打ち勝って根性で乗る。たまに、大きさにビビって入らないで帰るとすごく後悔します。なんで入らなかったんだろうって。恐いけど、やっぱり挑戦しとけば良かったって。仕事もビビったらダメだし、追い詰められた時、『go for it』の精神でトライするのはサ-フィンも仕事も一緒です」
 高下のビジネス感覚は、サ-フィンの精神文化と繋がっている。
 巨大なセットに遭遇したり、大きな波に乗る時、まず恐怖感が全身を貫く。これは理性や感情では説明できない本能的なものだ。その境地で自分の感覚を信じ、正しい判断を下せるかどうかは、経験や知識、信仰など、その機能が雑念なく整然とし、落ち着いた気持ちでいられるかどうかに拠る。そうして、全身全霊で恐怖を克服し、乗り越えることができたら、その力は、とてつもなく大きなものになる。そうして、困難や恐怖を乗り越えられるように自分の精神に働き掛けていけば、運や流れを引き寄せることもできるのだ。
大きな仕事を決する時も同じだ。冷静に判断し、運や流れを自分の手元に引き寄せる力がなければ、多くの財産と仕事を失うことになる。高下のビジネス感覚は、サ-フィンで高みを目指すうち、より洗練され、磨かれたのだろう。

 初夏、また、早起きが始まる。
 午前3時過ぎ、六本木の街はドンヨリと重く、外国人や酔っ払った男性客、着飾った女性が闊歩している。色、欲、金が混じり合い、まるで社会の縮図を見ているようだ。そのカオスの中を軽快に通り抜けて、首都高に乗る。聞き慣れた音楽が五感を叩き起こし、テンションを上げてくれる。そして、これから乗るだろう波に想いをはせる。その瞬間もまた楽しく、それもサ-フィンなのだ。

あまり知られていないシークレットポイント、バリのサヌールビーチにて会心のライディング。この日は小川直久氏と2人きりで(2009年11月)

Profile

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高下浩明
たかしたひろあき。株式会社リステアホールディングス代表取締役兼CEO。1987年、株式会社ルシェルブルーを設立し、婦人服専門店の事業を開始。2000年、ハイエンドファッションを提案するセレクトショップとしてリステア神戸店をオープン。01年にリステア東京店を開店。07年に株式会社リステアホールディングスに商号変更し、同年にリステアミッドタウン店開店。同店はセレクトショップの枠に留まらず、ファッションとアートやカルチャーとが融合する場としても注目を集めている。

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