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04 LIFESTYLE

クラシックギターの才能と芸者の舞が
老舗料亭「金田中」で交わるとき

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創業は大正。古くから花柳界として栄える新橋の一角に、趣あるたたずまいの料亭「金田中」がある。名だたる著名人たちも愛したこの店に、一人のファウストが訪れた。
重厚な入り口をくぐると、そこには、静かな和の空間が広がる。忙しない日常から離れ、この日、ファウストは料亭のイベント「奏舞 素敵の文化 交わるとき」を楽しみに来た。「奏舞」。これは、クラシックギタリスト村治奏一氏と、新ばし芸者衆の異色のコラボレーションイベント。「金田中」常連の一人によって企画されたこの席に、100人余りが、続々と店を訪れた。

珠玉の料理とギターの音色
異色コラボへの期待が高まる





上/大広間には、整然と座布団と箱膳が並び100人余りが訪れた。中/第一部では村冶氏が独奏。スタンダードナンバーから、オリジナル曲まで。食事の手を止めて、みな聞き入っていた。下/新橋芸者衆の華麗な舞いと、村冶氏のギターの音色が響き合う。

異色のコラボレーションに挑んだ村治氏。N.Y.のマンハッタン音楽院を首席で卒業後、若干28歳にして国内外で多彩な演奏活動を行う気鋭のギタリスト。

大広間の広さは、七十七畳。正面には舞台が設えられており、整然と座布団が並んでいる。その前には、美しい箱膳。箱膳の中には、金田中の料理人が精魂込めた料理がある。竹杯に入れられたレモンの冷酒を楽しみながら、宝石のような手毬鮨を楽しむファウスト。次々に訪れる常連たちとの会話も楽しい。今回の主催者とも話が弾む。
「村治氏は、素晴らしいギタリスト。以前、彼がこの店を訪れた時、居合わせた芸者の姐さんが、彼のギターに合わせて舞ったんですよ。ギターと舞いの組み合わせは、異色だとお思いでしょう。でも、これがとても合うんです。このコラボレーションをたくさんの人に楽しんでいただきたくて…」
ギタリストの村治奏一氏は、1982年生まれ。ギタリストである父の手ほどきを受け、幼いころから、ギターコンクールで数々の賞を受賞。2006年には、ワシントンケネディーセンターで、アメリカでの本格デビューを果たす。今、最も注目される若手ギタリストの一人だ。
合わせて舞うのは、新ばし芸者衆。新橋花柳界は、江戸後期にはじまり、150年あまりの歴史を誇る。今回、舞いの振り付けを手掛けたのは、花柳流四世家元、花柳壽輔氏だ。
期待が高まる中、広間の明かりが落とされ、美しい花筏の刺繍が施された幕が静かに開く。
まずは、村治氏の独奏。ジャズのスタンダードナンバー「テイク・ザ・Aトレイン」や、映画「黒いオルフェ」の劇中にも使われた「フェリシダーヂ」、村治氏のオリジナル曲「コダマ・スケッチ」など、ギターの名曲が、広間に響く。レモンの冷酒を片手に、美しい音色に耳を傾け、音楽の向こうに広がる世界に想いを馳せた。

洋の東西を越えた物語の心
ギターと舞いに広がる世界

独奏が終わって、一休み。
広間の片隅には「売店」が姿を現した。カウンターには、季節の鮎の揚げ物と蚕豆、美しいちらし鮨などが売られ、みな、それを片手に今の独奏の感想を語り合う。
そしていよいよ、「奏舞」の二部が始まる。
まずは「さくら変奏曲」。親しみある「さくらさくら」の音に合わせて、四人の芸者、お酌たちが鮮やかな袖を翻し、舞台を優雅に舞い踊る。
続くのはS.マイヤーズの「カヴァティーナ」。映画「ディア・ハンター」のテーマソングでもあるこの曲は、哀愁漂う切ないメロディ。その曲に合わせて舞う演目は、日本舞踊のスタンダード・ナンバーの一つでもある「唐人お吉」。幕末、アメリカ大使のタウンゼント・ハリスの妾となったお吉を、花柳流の加津代さんが舞う。その悲しく切ない物語が、ギターの音色と相まって、そこに深い世界が広がった。
そして「アルハンブラ宮殿の思い出」(F.タレガ)には、「保名(やすな)」。
スペインのグラナダにあるアルハンブラ宮殿は、14世紀に建てられたイスラム式の宮殿。作曲家のタレガは、この宮殿を訪れ、その情景を曲に乗せた。そして、合わせる「保名」で描かれるのは、陰陽師・安部保名が、亡き妻を思い、春の野辺をさまよう姿。それを舞うのは、花柳流のさきさん。
洋の東西を越えて、二つの物語が合わさることで、深い歴史と美しい情景が脳裏に鮮やかに蘇る。
ラストは「戦場のメリークリスマス」。くり返されるメロディに合わせ、再び、六名の芸者、お酌たち総出で舞台を彩った。
異色のコラボレーションによって繰り広げられた世界。
新たな挑戦を終えた村治氏は、その感動を語る。
「最初、企画を頂いたときには、1+1=2になる面白さがあると思っていました。しかし、実際にやってみると、1+1では終わらない、予想を越える化学反応があったと思います。芸者さんたちの舞いの間合いを見て、一緒に合わせることで、私自身も学ぶところが多くありました。これからも色んな人と出会うことで、たくさんのことに挑戦したいと思っているんです」
そう言って、ほほ笑んだ。

左/箱膳の返し蓋の上に乗せられた寄せ硝子の器には、巻海老、温玉子、干椎茸、茄子和蘭、オクラに琥珀色の出汁のジュレがかかった涼しげな一品と、竹杯に入ったレモンの冷酒。中/箱の中には、竹筒に入った唐もろこし摺り流しと、蒸し鮑、鱧、煮穴子の鮨。演奏を楽しみながら口に運べる。右/休憩時間には、座敷奥の売店で販売されたちらし寿司。ゲスト同士で語らいながら楽しめる。どれも伝統ある「金田中」でなければ味わえない珠玉の料理。

日常から解き放たれたひと時を満喫したファウストもまた、惜しみない拍手を送る。
「一流の料亭ならではの空間美。そして、一流のアーティストによる芸の極み。それぞれの芸術性がぶつかり合うことで、ギターだけでは味わえない、舞いだけでは味わえない、深い世界を見ることができ、至福の時を過ごしました」
その余韻を味わいながら、ファウストは「金田中」を後にした。

 

Profile

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村治奏一
Soichi Muraji

1982年生まれ。幼少よりギターを父、昇の手ほどきで始め、その後、福田進一氏、鈴木大介氏に師事。1996年、学生ギター・コンクールで大学生までの全部門を通した優勝に輝く。1997年、クラシカル・ギター・コンクール、1998年、スペイン・ギター音楽コンクール、第41回東京国際ギター・コンクールに続けて優勝。1999年9月よりボストンのウォールナット・ヒル・スクールに留学し、ギターをニューイングランド音楽院でデイビット・ライズナー及びエリオット・フィスク教授に師事。2003年6月、ウォールナット・ヒル・スクール・音楽科を首席で卒業し、同月にリリースしたCDデビュー盤『シャコンヌ』は、レコード芸術誌の特選盤に選ばれる。同年9月、ニューヨークのマンハッタン音楽院に進学、デイビット・スタロビン教授に師事。06年3月ワシントン・ケネディーセンター公演にて本格的な米国デビューを果たし、その模様はインターネットで全世界に配信された。毎年一時帰国時には演奏活動だけでなく、NHK「トップランナー」を初めTV、ラジオにも多数出演。07年にはニューヨークから衛星回線を通してNHK総合テレビ「英語でしゃべらナイト」に出演。08年5月マンハッタン音楽院を卒業。最優秀卒業生に贈られる「アンドレス・セゴビア賞」を受賞。同月には6枚目となるアルバム「夢」をリリース。6月にはモンテカルロ・フィルとのアランフェス協奏曲の国内ツアーを成功させる。11月NHKテレビ「J-MERO」の2回目の出演を果たす。09年2月には日本テレビ「読響・深夜の音楽会」の公開収録(5月13日放送)でアランフェス協奏曲を演奏する。また、5月にはニューヨーク・セントラルパーク内で開催された「Japan Day」で演奏する。2010年4月、ワシントンDC駐米日本大使公邸で催された「第98回桜祭り」レセプション・パーティーにおいて招待演奏を行う。また、 NHK/BS2&BS-hi「街道てくてく旅・熊野古道をゆく」のテーマ曲「コダマスケッッチ」を作曲・演奏し放送されている等、国内外で様々な活動を展開している
 

Data

村治奏一 オフィシャルブログ
http://murajisoichi.blogspot.com/

新ばし 花柳界 料亭 金田中
http://www.kanetanaka.co.jp/

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