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05 INTERVIEW

Kyle Maynard

カイル・メイナード

モチベーショナルスピーカー、作家、アスリート

Profile

誰にでも生きる使命・目的がある

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四肢欠損という体で、アフリカ大陸最高峰キリマンジャロの登頂に成功した初めての人物。
端正な顔立ちに、筋肉が盛り上がった肩。彼の“ポートレート写真”を見れば、人々はなんと恵まれたボディかと思うかもしれない。しかし、彼には、生まれながらにして手と足がない。正確には、腕は肩から肘まで、足はつけ根から膝までしかない。
その彼が、標高5895メートルの山を登りきった。家族さえも、計画を聞かされた時はジョークだと思ったというこの挑戦。カイル・メイナードを突き動かす使命とは何なのだろうか。

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見る者に勇気と感動を与える、カイル・メイナードのイントロムービー。
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“クロール”でキリマンジャロに挑む

チームメンバーやシェルパが見守る中、這うようにして山頂を目指すカイル。©Mission Kilimanjaro

トップ写真:キリマンジャロ頂上に到着。メンバーとともに、退役軍人の夢を叶えた瞬間。©Mission Kilimanjaro

開発段階からの汗と涙が染み込んだ特製の登山用プロテクター。©Mission Kilimanjaro

「絶対に登りきれると信じていたものの、困難の連続だったから、山頂に着いた瞬間はまさに感無量。涙が出たよ」
今年1月の挑戦を振り返り、カイルは語る。

2011年夏に立ち上げられたこのプロジェクト「ミッション・キリマンジャロ」は、カイルをはじめとするメンバーがキリマンジャロに挑戦することにより、障害をもつ子どもや、障害を負った退役軍人、困難を抱えた人々に向けて、「不可能なことはない」というメッセージを発信するもの。そして、もう一つのミッションは、アフガニスタンで命を落とした陸軍兵士コーリー・ジョンソン氏を山頂まで“連れて行く”こと。キリマンジャロを夢見ていた若き兵士の遺志を叶えるべく、彼の遺灰を胸に、カイルは山頂を目指した。
「先天性四肢欠損」というハンデをものともせず、これまでもアスリートとして鍛えてきたカイルにとっても、キリマンジャロ挑戦は、限界を超えたプロジェクトだ。掌と足の部分がないカイルが山を登るには、腕の欠損部分で急勾配の岩肌を捉え、そこから体全体を持ち上げなければならない。二足歩行ではなく、“クロール(這いつくばる)”での登山になるのだ。

出発までの過酷を極めるトレーニングは、目前にゴールがあると考えるからこそモチベーションが上がったという。
「目指すものがなくちゃ、あんな苦しいことできないよ! マスクを装着してのウェイトリフティングは、キツかった。傍から見れば、小さな男がマスクをつけて、ジタバタ唸っているなんて、クレイジーな光景だっただろうけど(笑)」

命がけの登山で学んだこと

登山開始は1月6日。最初こそ幸先いいスタートを切ったと思われたが、標高が上がるほど、トレイルはアップダウンの連続で、カイルの手足には大きなダメージが蓄積していった。
5日目には、体力も低下し、怪我も深刻化。長丁場は無理と判断し、最短、しかし最難関と呼ばれるウェスタン・ブリーチ経由のルートを取ることに。これは、標高5300メートル地点までの岩と氷河の壁900メートルを、キャンプなしで一気に登りきらなければならず、過去には登山家3名が命を落としている難ルートだ。カイルは、踏みとどまっているのすら困難なほどの急斜面を13時間、登り続けた。

「あんなに自分に鞭打った苦しい経験は、今までで初めてだった。前に前にと思っても、まだ山が高く立ちはだかっていて、絶望的な気分にさせられたよ」
「でも、山は僕に教えてくれた。この先の困難を憂慮するよりも、自分がどれだけ進んできたのかを見るべきだってね。これは、登山にしたって人生にしたって同じだ」。

そして、9日目の1月15日、カイルはついに山頂に到着した。
ジョンソン兵士の遺灰は、地上から5895メートルの空に舞った。
「Nothing is impossible」
「Never giver up」
カイル・メイナードが、またこの言葉を証明してみせたのだ。

From Faust A.G. Channel on [YouTube]

米国のスポーツ専門チャンネル「ESPN」によるキリマンジャロ登頂までのドキュメンタリー。
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ネバーギブアップの原動力

「絶対に諦めるな」というカイルのモットーは、まさに彼の生き様そのものだ。
自立性を重んじる両親の勧めで、すでに小学生時代からフットボールチームに所属し、11歳からレスリングを始めている。もちろん、チームメート、対戦相手は健常者だ。高校1、2年時のレスリングマッチは、ほぼ全敗。
「36試合連続で負けたんだ(笑)。毎回、震えるほど怖かったけど、いつか勝ってやろうって思ってた。それで、初めて勝ったときに気づいたんだ。勝負の決め手は、自分に自信があるかどうかで、相手の資質は関係ないって」

吊り輪を使っての懸垂トレーニング風景。©Kyle Maynard
国民的TV番組に出演したときも緊張しなかったという、豪胆な性格の持ち主。©Kyle Maynard

その後、高校3年生では連勝を収め、全米高校生リーグで12位にまで大躍進。さらには、ウェイトリフティングでも109キロの負荷で23回のベンチプレスに成功し、10代トップ記録を築くなど、傍からは荒唐無稽にも見える挑戦を彼は幾度となく掲げ、その度にやり遂げてきた。

自身の経験をもとに、2005年には『No Excuses』という自叙伝を上梓。“言い訳は絶対に吐かず”、困難に打ち勝つことの重要さを説くカイルの言葉には、彼の辿ってきた長い道のりの重さと真実がある。
「普通の体に生まれたかったか? 子どものときから、何度も自問したよ。普通であることを渇望し、葛藤したときもあった。でも、僕にはこの体に生まれた使命がある、人々にネバーギブアップと伝える使命が」

アメリカン・ヒーローたちの現実

そんな意欲的なカイルだが、もちろん鬱屈した時期も経験した。2005年、本を出版して間もない頃、大学生でありながら全米を飛び回る生活に忙殺され、講演では熱弁をふるいながらも、自分を見失い、部屋では孤独にさいなまれる日々。
「もう何もかもやめよう」
そう思った日に、空港で2人の元軍警察と出会う。彼らは、イラクで負った重度の火傷を苦に自殺を図ろうとしたそのとき、TVでカイルのストーリーを観て、自殺を留まったという。
「自分のすべきことを改めて気づかされた、衝撃的な出会いだった。その後、ひとりで何時間も泣いたよ。僕の人生におけるターニングポイントは、あのときだ」
その後、アメリカでは実に年間6570人以上、1日に18人もの元兵士たちが、戦争のトラウマや負傷による障害を苦に自殺をしているということを知り、“アメリカ人のヒーロー”の抱えている現実を人々に知らせ、変えていこうと決意したという。

あれから6年、当時の決意がミッション・キリマンジャロを可能にした。

「日本で悩んでいる人々にも伝えたい。頭の中で悩んで嘆いて視野が狭くなるよりも、外に出てスケールを大きく考えてほしい。地球に生まれた人間の可能性を信じることと、誰にでも生きる使命・目的があることを」

現在、年間150から200日ペースで世界を飛び回り、講演をこなしているカイル。目下のゴールについては、「ベスト・モチベーショナル・スピーカーになること」と断言する。そんな彼が、ちょっと気を緩めて、リラックスできるオフの日はあるのだろうか。
「もちろん! 映画を観たり、友だちとバーでハングアウトしたり、いたって“普通”さ。明日は、テキサスに住むガールフレンドに会いに行くんだ。車椅子を積んで、運転して行くつもりだよ」

インタビュー中は使命感に溢れる熱い口調だったのが、現在つき合って2ヶ月という恋人に話が及ぶと、途端に26歳の青年らしい等身大の姿が見えてきた。

遠距離恋愛もネバーギブアップ。
カイル・メイナードに不可能なものはないはずだ。

 

 

Profile

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Kyle Maynard
カイル・メイナード

モチベーショナルスピーカー、作家、アスリート


1986年生まれ。アメリカ合衆国ジョージア州アトランタ在住。先天的四肢欠損という障害を持ちながら、レスリング、ウェイトリフティング、柔術などの分野でアスリートとして活躍。2005年に自叙伝『No Excuses』を出版しベストセラーに。栄誉賞など数々のアワードも獲得し、人気TV番組にも数多く登場。モチベーショナル・スピーカーとして企業や学校、軍基地などで講演をするほか、執筆活動、フィットネスジム「No Excuses Crossfit」も経営するなど、様々な分野で活動を続けている。

公式サイト
http://kyle-maynard.com/

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2014/04/30

自由と勇気

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