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05 INTERVIEW

Ai Futaki

二木あい

フリーダイビング水中映像家

Profile

永遠の海の美しさを求めて
セノ-テでのギネス記録挑戦

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2011年1月7日、二木あいは、メキシコのセノ-テで、一番長い距離をフリ-ダイビングするというギネス記録に挑戦した。だが、本当の目的は、ギネス記録達成そのものではなかった。二木がギネスの先に求めようとしたものとは……。

一枚の写真がある。
深みかかったブル-の海の中を光のスポットライトが降り注ぐ。そのステ-ジの中を人間が悠々と泳いでいる。その姿に、人工的な違和感はない。水に反発するのではなく、あらゆるものと融和した優美さがある。
「こういう一枚の絵で海の美しさを表現し、美しい海を守ることを始め、いろんなメッセ-ジを発信しているんです」
自ら被写体となった絵を見ながら二木あいは、そう語る。
「今回のギネス挑戦も、その活動のためのひとつだったんです」
2011年1月7日、二木はメキシコのセノ-テで、洞窟で一番長い距離を一息で行くギネス記録に挑戦した。これは従来、アスリ-トが世界ランキングを争うコンペティティブなものではなく、深さを競うものでもない。距離を競うもので、通常のダイナミック(プ-ルで行なわれる距離を競う競技)と異なるのは、場所が洞窟だということだ。ここで二木は、フィン有り、フインなしの2種目のギネス記録に挑戦したのである。 
そのスタ-トは、2010年3月。それから2回メキシコへ準備のため渡航。フィジカル面での本格的練習が、2010年11月。ギネス挑戦の2ヵ月前に始まった。
「ここからインナ-マッスルを使った泳ぎを始めたんです。泳ぐ時、いらない力を使って泳ぐと酸素を使うので、乳酸がたまり苦しくなって、水中に長くいられなくなるんです。でも、インナ-マッスルは小さな筋肉なので、使う酸素も少ないし、水に反発せず、流れとともにラクに泳げるんですよ」
最初の1ヵ月は、インナ-マッスルを意識してプ-ルをただ歩くだけだった。「泳ぎの練習ももちろんしました」。 毎日5、6時間も入り、塩素臭くなった。だが、いっこうに手応えが掴めず、「先生、大丈夫かね」と、不安になったという。
「2ヵ月で完璧ではないですけど、やれるところまでやりました」
セノ-テには、1週間前に入った。
「現地では、まず自分の体の中のクリ-ニングを始めました。お腹の中に食物があると消化するのに酸素を使うので、既製品や炭水化物を摂らず、玄米と野菜と果物だけを摂るんです。消化の事よりも、せっかくのギネス記録挑戦という場、自分を最高の状態で望みたかった。空腹状態なので地上ではかなり辛いですが、逆に水中は必要のないことに酸素を使わないので、すごくラクなんです」
クリ-ニングと並行して、水中のトレ-ニングも欠かさなかった。いや水中トレーニングと言うよりは、調整。1日1本本番さながらに泳ぎのみを1週間。ギネス挑戦と同じように泳ぎ終わるまでの動きを体に染み込ませ、「これは、簡単なんだよ。自分の限界に挑戦している訳じゃないんだよ。楽しいんだよ」という安心感を脳に持たせる。フリ-ダイビングは、体作りも大事だが、メンタルの要素が非常に大きいのだ。



100m、1分52秒の時空の旅へ

1月7日、ギネス記録に挑む前、マヤ族の祈祷を受けた。セノ-テは、マヤ族が生活用水や生贄の場所として使用しており、「生から死への通り道」と言われてきた。マヤの儀式には周りにいる人全員、そして私自身の体の中を浄化し、生から死の通り道を通り、また生に戻って来なさいという意味があるという。そして、神聖な場所、セノーテへ入ってもいいですかと伺いを立て、許可を頂くという意味合いもあった。

仲間たちが見守る中、ウエットを着て、フィンを付けて胸まで水に入る。呼吸を整えて、少し瞑想する。潜るタイミングは、自分で決められるのだ。
「OK」
ゴ-サインを出す。2分前から30秒、20秒、10秒とカウントダウンし、スタ-トした。洞窟の水は淡水で冷たく、浮力もない。
「海水は潜ると下から突き上げるような浮力があるんですけど、洞窟は塩分がないのでス-ッと泳ぎに入っていけるんです」
水深5mをロ-プに沿って泳ぐ様は、優雅さに満ちている。その姿は、魚のようにも哺乳類のようにも見える。少なくとも人間がプ-ルで泳いでいるような不自然さはない。
「泳ぎは、バシャバシャと泳ぐという感じではなく、グイと押し出して、そのまま流れに乗っていく感じです。その際、手を伸ばしたり、きれいに写真に撮られることも意識しています。ギネス記録というより、世界で一番美しい泳ぎを見てもらいたかったので、泳いでいる時は、何も考えないですね。ただ、目の前にあるロ-プを伝っていくだけ。いろいろ考えると脳が30、40%も酸素を使うし、ひとつ考え始めると次、次と巡ってしまうんで、いいことがないんです」
目前のロ-プを目印に、洞窟内を進んでいく。ゆったりとした時間が流れ、それは水の中を泳ぐというよりも時を泳ぐような感じになるという。そして、最後のカ-ブを曲がると、残りは数十mになった。

「まだ、行けたし、すごく楽しくて、本当は上に上がりたくなかったですね。スピ-ドダウンするから、『みんな、写真撮って』という余裕もありました」
余力を残し、名残惜しそうに水面に向けて上がって行く。水上ではギネス挑戦を支えた仲間が待っていた。自然と歓喜の人の輪が出来る。二木は、フィン有りでは、100m(1分52秒)で世界で女性初の記録、フィンなしでは90m(2分2秒)で世界で人類初の記録を達成したのである。ちなみにフィンなしの方は、ギネス協会が新たにカテゴリーをつくってくれた。

 

ギネス世界記録を樹立した二木さんのフリーダイブをムービーで!

 

ギネス記録の先にあるもの

だが、二木にとって本当の挑戦は、これからだ。映像などで海の美を伝えるこれまでの活動は、称賛はされども認知度が低く、商業的なベ-スを築くまでには至らなかった。個人の名を広め、これからさらに活動の場を広げて行くためには、ギネスホルダ-という肩書きが必要だったのである。
「でも、自分が撮ったり、被写体となった映像で海の美しさを伝えていくことは、これからも変わらないです」 
海の美を伝えること。
それは、やや抽象的で、分かりにくい手法かもしれない。もっと直截的に環境保護を歌えば、偽善的と受けとめられる可能性があるかもしれないが、ストレ-トなメッセ-ジとして人々にダイレクトに響くだろう。しかし、二木は、その手段を講じない。海の美しさをシンプルに表現し、メッセ-ジを発信する。愚直に継続することで人々の感性をノックし、気付いてほしいと訴えていく。
「これからは水族館などで泳いだりするようなパフォ-マンスもやりたいですし、ワ-クショップという形でいろんな人にフリ-ダイビングの面白さを伝えていきたい。魚に近い形で潜ってもらって、ゆっくりと時間が流れる水の中の世界を味わって、リラックスしてもらいたいんです。そして、海を体感してもらいたい。ここから感じる事は必ずあるはず」
ギネス記録は、いずれ破られる。しかし、世界で一番最初に行った、という事実は誰も破る事が出来ない。二木にとっては、あらゆる可能性が今後、広がっていきそうだ。

Profile

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Ai Futaki
二木あい

フリーダイビング水中映像家


1980年6月30日、石川県生まれ。3歳から水泳を始め、西日本の背泳の記録を塗り替える。2003年、ボンジュラスでスキュ-バダイビングに出会い、ビデオグラファ-として活躍。2007年、タイでフリ-ダイビングをスタ-トさせ、2009年にメキシコのセノ-テ アス-ルでコンスタントウェイト ウィズ アウトフィン(DYN)でアジア記録を樹立。2011年1月、メキシコのセノ-テ チキンハンで、洞窟の中を一息でいちばん長く泳ぐという種目で、フィン有り、フィンなしの2種目でギネス記録を樹立した。フリ-ダイビングの様々な可能性を探り、その楽しさを世界に広めつつ、海の環境保護にも積極的に取り組んでいる。

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2014/04/30

自由と勇気

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