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Vol.6
チーム篠塚、初の国際大会で得たかけがえのないもの
~南アフリカ現地同行レポート~

9月中旬、篠塚建次郎は南アフリカの首都・プレトリアにいた。ようやく冬が終わりに近づいていたが、まだまだ空気の冷たい頃だった。篠塚が今年結成した「ソーラーカーチーム篠塚」は、ここ南アフリカで9月18日から行なわれる「サソル・ソーラー・チャレンジ・サウスアフリカ2012」に出場するため、マシンの最終調整に追われていた。

大会側から用意された作業場でソーラーカーの最終調整を受ける。

世界2大ソーラーカーレースと呼ばれているのが、オーストラリアで開催される「ワールド・ソーラー・チャレンジ」と南アフリカで開催される「サウス・アフリカン・ソーラー・チャレンジ」。それぞれが2年に1度、毎年交互に開催される。(*今年の大会は「サソル・ソーラー・チャレンジ・サウスアフリカ2012」という名称で開催)。前者はオーストラリア3000kmのルートをタイムで争う競技に対し、後者は南アフリカ国内4000km超の規定距離走破を目指すものだ。太陽光という再生可能エネルギーを動力に走行するソーラーカーが、スピード、そして走行距離とそれぞれの大会で競うことで、ソーラーカーの技術開発を推進しているのだ。
南ア大会は2008年から始まり、今年で3回目を迎えた。今大会は4632kmというこれまでで最長のコースとなる。首都プレトリアを出発し、西回りでケープタウン、イーストロンドンなどの都市を経由しながら11日間かけて南アフリカをほぼ一周する。日の出から7時45分までソーラーパネルのチャージができ、8時から前日の到着順に2分ごとにスタートして18時まで走行が可能。18時以降にゴールした際は、タイムペナルティとして翌日の8時のスタート時間に遅延分が追加される。コースは険しい山岳路や、交通量の多い街の中心地を走ることもある。篠塚は南ア大会についてこう話す。「もちろん一般車も走行するし、道路工事なども多く、決して整えられた環境とはいえない。単に規定距離を走破するだけではない難しさがここにあり、それが世界一過酷なソーラーカーレースと呼ばれる所以である」
クラスはソーラーパネルの装着面積がそれぞれ違う三輪のチャレンジクラスとアドベンチャークラス、そして四輪のオリンピアクラスがあり、さらにEV車やバイク、ハイブリッド車などのテクノロジークラスがある。今大会には、現在2連覇中の東海大学チーム、そして地元の大学やプライベートチームなど14チームが集結しそれぞれのクラスで戦った。チーム篠塚は、7.0㎡のソーラーパネルを携えアドベンチャークラスでの競技に臨んだ。参戦したメンバーは、チーム代表の篠塚、監督の山田修司、エンジニアの塩川祐樹、ドライバー兼エンジニアの大嶋建一、ナビゲーター兼ドライバーの佐々木真人。さらに先導車、司令車、トラックを運転する地元ボランティア4人でチームを形成した。レース中、夜はキャンプを張って過ごす。火をおこして食事はバーベキュー。そしてシュラフに身を包んで眠る。ホテルに滞在するなんていう甘い環境では決してない。少人数ながら精鋭揃いのチーム篠塚の初の国際大会出場。どんな展開がチームを待ち受けていたのだろうか。

左:車検では、車体の計測のほか、バッテリーや電気配線のチェックを受ける。 中・右:プレトリア郊外にあるサーキットでテストドライブが行なわれた。
今大会のルートと出場チーム。

初日に受けた悪路の洗礼

9月18日、スタート地点にはソーラーカーをひと目見ようと多くの観客が集まっていた。賑わう観客たちとは裏腹にチームメンバーには張り詰めた空気が漂う中、スタートを切った。スタート地点を過ぎてしばらくするとすぐに高速道路に突入。通勤車がひしめき合う道路では、スピードをうまくコントロールしながら進まなければならない。ソーラーカーレースでは、先導車、ソーラーカー、司令車の3台が列をなして走行することが決められている。だがレースが行なわれているとは知らない一般車は先導車とソーラーカーの間に平気で割り込んでくる。重量が150kg程度のソーラーカーが一般車に追突されてはひとたまりもない。交通量の多いエリアの走行において、一般車との衝突が一番怖いとチームメンバーは話す。

しばらく進み続け一般道に出ると今度は道路工事のサイン。対向車線側が工事中のため、一方の車線の車を通行させるため、もう一方の車線は一時停止しなければならない。そして標識に書かれていたのは「約15分お待ちください」の文字。思わず目を疑うようなアバウトでいて、のんきな指示だ。篠塚は「発展途上にある南アフリカでは現在道路の舗装が常に行なわれており、こうした不可抗力による時間のロスはこの国ならではといえるかもしれない」と話す。大会中、チームが道路工事による約10~20分の一時停止に何度も遭遇したことはいうまでもない。

それでも約80km/hをキープしながら走行し、ようやく中間地点のコントロールポイントに到着。「ここでは30分間、車を停止させなければならない。この間にドライバーの交代や先導車や司令車の給油、ランチの買い出しなどを済ませ、後半のレースに備える」と篠塚。ここでドライバーは篠塚から大嶋に交代。そこに大会運営側から連絡が入った。後半のルートは未舗装の道路が多く、道路の大小のくぼみなどに注意して走行するようにとのこと。実際そのルートに差し掛かると想像していた以上の悪路にチーム一同驚かされる。車線全体を覆うような大きなくぼみが断続的に現れる。「我々のマシン「シノワン」は3輪のため、道路の真ん中のくぼみはきちんと避け切らないと後輪が引っ掛かってしまう。避けるために対向車線に出なくてはならないときもあり、またバッテリーを効率よく使用するためには徐行運転を極力しないように進まなければならない」。先導車はソーラーカーにできる限りくぼみの箇所や大きさを無線で伝えながら、避けて走行する指示を出さなければならないのだが、あまりのくぼみの多さに指示が間に合わなかった。
そのとき、マシンが大きく左に逸れ、道路横の草原に乗り上げてしまったのだ。幸いすぐ車は止まり、ドライバーにも異常なし。しかしそのときの衝撃によりタイヤカバーにひびが入ってしまった。テープでそのひびに応急処置を施しながら、その間もソーラーパネルを太陽にかざしバッテリーチャージを行なう。

大会初日からいきなりアクシデント。

約40分後再び走り出したものの雲が差し掛かったため、速度を落として走行、さらにゴール近くでタイヤのパンクにも見舞われた。チーム篠塚は16時30分、1日目のフィニッシュラインであるフライバーグに到着した。
「レースの序盤には必ず何かしらのアクシデントが起こるもの。起きてしまったことを考えるよりも、この後のレースにどう生かすかが重要」
長年のレース経験から、篠塚は冷静に初日を振り返った。

無事ゴールしたフライバーグでは多くの子どもたちから歓迎を受けた。

太陽と大地とソーラーカー

「If today is a bad day, tomorrow will be a good day」
(今日が悪い日だったら、明日はきっといい日になるだろう)

この言葉は、篠塚がアクシデントに見舞われた1日目の終わりに、チームに参加してくれている地元のボランティアに伝えたものである。そのポジティブな言葉通り、大会2日目、3日目は天侯も良く、また大きなマシントラブルもなく、チーム篠塚は順調なレースを展開した。「距離を争うこの大会では、いかにバッテリーを効率良く使いながら規定距離を走り切れるかというところに重点を置いている。晴れていて、未舗装のひどい道でない限り70~80km/hをキープしながら走りたい」と篠塚は戦略を話した。
それにしてもソーラーカーレースとは、太陽のありがたみを改めて感じさせてくれるものである。メンバーは毎朝日の出を待ちわびながら、バッテリーチャージの準備をする。日が昇り始めると、その日1日が始まることを体で感じ、そして太陽の軌道に沿って光が直角にパネルに当たるよう角度を調整する。

だが大会中は晴れた日ばかりではなかった。雨天の際は、雨水が当たらないよう電気系統にはポリエチレンのフィルムで作ったカバーをかけるが、ドライバーはハッチの隙間やタイヤからの巻き上げで車内に入ってくる雨水でびしょ濡れになることもある。ワイパーがないため前方の視界は悪いし、滑りやすくなった路面を走行するのに神経を消耗する。唯一雨の功名とは、ソーラーパネルの表面温度を下げ、発電効率をアップさせてくれることである。

変わりやすい天候に翻弄されながらも、雲の切れ間から太陽の光が見え始めるとチームメンバーはほっとする。篠塚曰く「のどかな牧歌的風景や雄大な山々が広がる大地を駆け抜けるのは実に気持ちが良いものだ。競技中という緊張状態にありながらも、美しい自然を目の当たりにし、太陽の恵みを実感できるのはこの大会の醍醐味だ」

From Faust A.G. Channel on [YouTube]

大会中最長の658kmのコースを走破した6日目の篠塚のインタビュー
★【YouTube:FaustA.G.チャンネル】でもご覧いただけます(スマートフォンの方 はこちらがオススメ)

チームを襲った大会中最大のピンチ

レースも終盤に差し掛かった大会8日目にそれは起きた。その日のコースは、イーストロンドンからブルームフォンテーンの559kmの距離を走行予定だった。前半は登り坂の多い山岳コース。ソーラーカーのスピードが上がらない。約40~50km/hで我慢の走りが続いた。ようやく到着したコントロールポイントでは、大会側から先にあるスミスフィールドという町で大々的な道路工事が行なわれていることを伝えられた。注意して走行することにして進んでいくと、工事現場を迂回するため、砂利道を通らなければならない箇所に差し掛かった。「シノワン」のタイヤは走行抵抗を極力下げるため、バイクなどで使用されるタイヤ(*現在開発段階のサンプル)を使っており、砂利というより大きな石がごろごろ転がっている道の通行にパンクは避けられなかった。

砂利道で徐行を強いられ、さらにパンクの修理などに時間を費やしたため、再び走り出した頃には、日が落ちかけていた。18時を過ぎたところでフィニッシュラインのブルームフォンテーンまで約40km。あたりは無情にも暗くなってきた。日が落ちた後でのソーラーカーの走行もドライバーを悩ませるという。「車高の低いソーラーカーにとって、ただでさえ視界が悪くなる上に、対向車のライトが反射してしまい前方が見えにくい。衝突を避けるためにも速度を落とさなければならなかった」と大嶋。
残り31km地点。突然パトカーが近づき、チームに止まるよう指示した。警察はかなり興奮したようで、「なぜこんな車が公道を走っている!?誰の許可を得ているのだ!」とどなり立てる。ボランティアのメンバーが大会側から渡されている許可証を見せながら説明するとようやく状況を把握したが、やはり夜間の走行は危険だと主張。やむなく、マシンをトラックに積み込み、この日の残り31kmを走行することは叶わなかった。「規定距離を走破することを目標としていたチーム篠塚にとって、これまでマシントラブルや天候に左右されながらも走破してきた記録が初めて崩されてしまった」と篠塚は悔しさをにじませる。

フィニッシュラインに到着した篠塚は、すぐに状況を説明するため、オフィシャルのもとへ赴いた。しかしオフィシャルからの返答は審議にかけるということで、この日の記録はマイナス31kmのまま。果たして状況を覆すことができるのか、オフィシャルの判断と各チームの了承に委ねられることになった。失意のまま、その日のキャンプ場へたどり着いたチームメンバーは口数も少なく各自のテントに戻っていった。

ついにゴール!チーム篠塚の記録は!?

8日目の記録は審議中のまま、チーム篠塚は悪路の走行で幾度もタイヤパンクに見舞われながらも、9日、10日目も規定距離を何とか走り抜いた。そして10日目、オフィシャルは正式に、警察への許可が行き届いていなかったという不手際を認めた。そして最終日の11日目、スタート前の時間帯を利用して31kmをリカバーする走行がチームに与えられることになった。「これで全規定距離走破が実現できるかもしれない」と篠塚をはじめ、メンバー一同の心に希望が芽生える。

しかし11日目は朝から厚い雲が空を覆い、十分なバッテリーチャージができないままリカバー走行をせざるを得なかった。無事リカバー走行は終えたものの、スタートラインに戻って来たシノワンのバッテリーはほぼ空の状態。
「ここからゴールまでの227kmはこの状態で走ることはできない。さらに天気予報では、これからプレトリアに向けて雨が降るという。これまでの全行程走破の記録が確定したばかりなのに、ついにここまでなのか」
篠塚と山田はギリギリまで選択を迫られていた。

8時を過ぎ、時計の上ではチーム篠塚はスタートしたが、このまま充電を続行。雨が降るまではとにかく走るためだ。曇りがちな空の下、走行できるまでの充電が完了したのは11時半過ぎ。チーム篠塚はいよいよ最後の行程を走り始めた。順調に進んでいくと風が雲を飛ばしてくれたのか、晴れ間が見え始めた。しかしその風は同時に突然の砂嵐を巻き起こす。この地域を含むフリーステイト州特有の現象だという。繊細なソーラーパネルは砂やほこりに弱く、発電効率にも影響を及ぼす。猛烈な砂嵐は前方2~3mも見えないほど視界を妨げる。

それでも晴れていたことが幸いし、ひたすら走行を続ける。もう雨の心配はない。ゴールの地、プレトリアの文字が書かれた標識が見えてきた。ここからは1日目のスタート時同様、交通量の多いハイウェイに入ったが落ち着いた走行を続け、スタートから4時間後、ついにゴールのプレトリアに到着した。

「雨の予報でついにここまでかと覚悟したが、神が味方してくれたのか陽射しに恵まれた。そしてとうとう規定距離をすべて走り切ることができた。我々チームの目標が達成できたことは素直に喜びたい」と篠塚。ゴールでは、メンバーが篠塚を胴上げして喜びを分かち合った。こうしてチーム篠塚は規定距離4632kmを走破し、見事アドベンチャークラスで優勝。さらにベストプライベートチーム賞、レコードブレイカー賞(全日程における最長走行距離走破)を受賞した。

チーム一同、4632kmという距離を走破しただけではない充足感を感じていたに違いない。年齢も仕事もレースのキャリアもそれぞれ違う者同士が集まり、チームにとって初の国際大会という大舞台で11日間戦い抜いたということ。このことは新たなる挑戦へとメンバーそれぞれの自信につながっていくだろう。
「これまで出場したソーラーカーレースのなかでも一番ハードだった。距離の長さはもちろんだが、思っていた以上に路面のコンディションが悪く、マシンへの負担が大きかった。それでも走破できたことは嬉しい」とチーフエンジニアとしてチームを支えた塩川。さらに監督を務めた山田も「ソーラーカーは我々の想像もつかないような遠いところまで連れて行ってくれる。この先も、ソーラーカーで新たな景色をメンバーとともに見ることができたらと思う」
そしてチーム代表の篠塚はこう話す。「ソーラーカーでやりたいことはまだまだたくさんある。将来的にソーラーカーが一般車のように走る社会を目指すために、これからも挑戦し続けていきたい」

 

ソーラーカーチーム篠塚の全日程のスケジュール

 18日:8:02-16:30 453km、プレトリアーフライバーグ
 19日:8:02-14:30 403km、フライバーグーアピントン
*充電を行なったため実際の走行スタートは8:30
 20日:8:02-16:00 アピントンースプリンボック
*ゴール到着後充電を行なったため実際の到着時間は14:00
 21日:8:02-17:55 556km、スプリンボックーケープタウン
 (22日レストデイ)11

 

 23日:8:02-18:00 410km、ケープタウンーオウツフルン
*ゴール到着後充電を行なったため実際の到着時間は15:40
 24日:8:02-18:00 658km、オウツフルンーイースロンドン
 25日:8:02-18:00 559km、オウツフルンーブルームフォンテイン
*充電を行なったため実際の走行スタートは8:37
 26日:8:02-18:00 568km、ブルームフォンテインーピーターマリッツバーグ
*充電を行なったため実際の走行スタートは8:34、また、ゴール到着後充電を行なったため実際の到着時間は17:15
 27日:8:02-19:00 563km、ピーターマリッツバーグーセクンダ
 28日:8:02-15:30 227km、セクンダープレトリア
*充電を行なったため実際の走行スタートは11:38

Data

ソーラーカーチーム篠塚公式サイト
http://www.solar-shinozuka.jp/

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