バリの神秘を体現する
リゾートと熱帯に恋した建築家
アマンダリ/ウブド・バリ島 Amandari Ubdo, Bali
バリの神秘を体現する
リゾートと熱帯に恋した建築家
アマンダリ/ウブド・バリ島 Amandari Ubdo, Bali
ラグジュアリーリゾートの代名詞として知られるアマンリゾーツは、1988年、タイ・プーケットの「アマンプリ」から始まったが、その名声が確立したのは、89年に二軒目として開業したバリ島・ウブドのアマンダリによるところが大きかったのではないだろうか。「アマンプリ」やその後のバリのアマン、すなわちチャンディダサの「アマンキラ」、ヌサドゥアの「アマヌサ」がビーチリゾートなのに対して、「アマンダリ」は、山間の芸術村、ウブドの緑の中にひっそりと建つ。もともとバリ人は、海を魔物が棲む場所として恐れていた。一方、神々が棲む場所として山を崇めていたため、山のウブドには、バリ島本来の、神々と共にある人々の暮らしと信仰が根づいている。創業から二十年余り、「アマンダリ」は、アマンリゾーツのアイコンとなっただけでなく、バリの神秘が息づく土地としてのウブドを、世界のジェットセッターたちに知らしめるきっかけともなった。もし「アマンダリ」がなかったなら、多くの隠れ家リゾートが建つ現在のウブドはなかったかもしれない。
アマンリゾーツの新しさは、繁華街のあるような立地ではなく、中心部を外れた、ややもすると辺鄙な場所にラグジュアリーリゾートを建てたことにある。「アマンプリ」の建つパンシービーチもプーケットではそうした位置づけだったが、そのコンセプトをより明確に打ち出したのが「アマンダリ」だった。そして、地元の人々をスタッフとして雇い、地域と寄り添うように存在するリゾートのあり方をいち早く実現したのだ。「アマンダリ」の建つクデワタン村は、王宮のある中心地の北の外れに位置する。ライステラスの緑がまぶしい、いかにもバリの山間部らしい風景が広がる一帯だ。クデワタン村に生まれた女の子は、通過儀礼のようにして「アマンダリ」で踊りを習い、ゲストを迎えるフラワーガールになるという。彼女たちのかわいい出迎えを受けたければ、午後の時間帯に到着することを薦める。プールサイドでは、ちょうどアフタヌーンティーのサービスが始まる頃、いかにもバリらしい時空がそこにある。
「アマンダリ」の魅力は、その建築によるところも大きい。地元の素材を使ったバリ建築の建物。ゆったりと敷地内に配置されたヴィラは、バリの村そのものを思わせる。クラシカルなバリスタイルは、モダンなリゾートが多くなった昨今、むしろ新鮮でさえある。
手がけたのは、バリのリゾート建築を語るのに忘れてはならない建築家、ピーター・ミュラーである。1927年生まれ、オーストラリアで建築家としてすでに実績を積んでいたミュラーがバリにやって来たのは、1970年のこと。そのきっかけは、サヌールにある伝説のリゾート「タンジュンサリ」のオーナーウィヤ・ワォルントゥと意気投合していた、オーストラリア人アーティストのドナルド・フレンドとのつながりだった。
当時、彼らは「マタハリ」と名づけた新しいリゾートのプロジェクトを計画していた。フレンドからその話を聞いたミュラーは、バリ行きを快諾したのだった。ミュラーは、もともとシドニーを中心に活躍していた住宅建築家である。二十世紀アメリカの建築の巨匠、フランク・ロイド・ライトの影響を強く受けたスタイルは、ライトのいわゆるオーガニック・アーキテクチャー(有機的建築)のオーストラリアにおける実践と評価されていた。有機的建築とは、背景となる自然を含め、造形物を構成するそれぞれの要素が関わり合いながら、完全な建築が形作られるとするものである。ライトが舞台としたのは、アメリカ中部の草原や西部の砂漠であったが、ミュラーは、自らの建築を開花させる新たな舞台として、熱帯のバリに興味を持ったのではないだろうか。ウィヤとフレンドの「マタハリ」プロジェクトは実現しなかったが、その敷地と計画は、後の「バリ・ハイアット」に受け継がれた。そして、この「バリ・ハイアット」の現場建築家として、パブリックエリアなどを担当したのが、後に「アマヌサ」など多くのアマンリゾーツを手がけることになるケリー・ヒルである。
ピーター・ミュラーは、その後もバリにとどまって、「バリ・オベロイ」を手がけた。そして、オベロイで試みたバリの村をコンセプトとする発想が、より完成されたかたちで提示されたのが「アマンダリ」だった。1970年代のサヌールから続いた物語の先にウブドの「アマンダリ」はある。バリの三軒のアマンの中でも、ことさら特別な雰囲気を感じるのは、そうしたバックグラウンドのせいかもしれない。
Text:Yumi Yamaguchi
2012/12/13
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