オマーン~「アラビアンナイト」の砂漠へ
Al Raha Tourist Camp
オマーン~「アラビアンナイト」の砂漠へ
Al Raha Tourist Camp
アラビア半島の東端に縦長に広がるオマーン。「エッセンス・オブ・アラビア」(アラビアの真髄)と呼ばれるこの国で、砂漠へのツアーを体験した。そこには古くから変わることのないベドウィンの伝統と、「アラビアンナイト」を彷彿とさせるエキゾチックな情景があふれていた。
オマーンは、古くからインド洋交易の拠点として栄えてきた。船乗りシンドバッドが冒険に満ちた航海にのりだしたのも、この港からだったという。帆船の製造でも隆盛を極めたが、18世紀、蒸気船の登場と共にその勢いは衰退。一時は鎖国状態となっていた。
あらためて国が開かれたのは、ほんの40年前。石油の採掘がはじまり、現スルタン(国王)が即位した1970年のことだ。以来、近代化は急ピッチで進められてきたが、長い間封じ込められていた古きアラビアの表情は、今もいたるところに顔を出す。砦に囲まれた石造りの街、道路わきで草を食むラクダやヤギ、民族衣装アバヤ姿の女性たち、混沌と迷路のように続くスーク、理解のできない喧騒――。それはまさにアラビアンナイトの世界。ヨーロッパや北米、そしてアジアでもない、他のどこでも味わうことのできないゾクゾクするような異郷感が、ここには満ちている。
好奇心旺盛なベドウィンの子供たち。
何もない砂の上に建つバラスティに向かうベドウィンの母と子ども。
そんなオマーンでひときわディープな体験ができるのが、砂漠だ。東部の海岸線近くに広がる「ワヒバサンド」。東西に100キロ、南北に200キロと、岩手県と同じくらいの面積をもつが、首都マスカットからもほど近いため、四駆車を利用すれば比較的容易に入っていくことができる。ここでたっぷり砂上体験ができるツアーもあり、欧米から訪れる冒険志向の旅行者の間ではとくに人気が高い。
マスカットから、ガイドと共に頑丈な四駆車に乗り込み、南へ約200km。いくつかの小さな集落を通過した後、砂漠はいきなり目の前に現れる。「ここから砂の海」といった感じで、驚くほど境界がはっきりしているのだ。走りやすいようにタイヤの空気を抜き、見渡す限りの砂の大地に乗り出す。いくつか残された轍のあとをたどるように進む。地図を見るとわかるが、一応砂漠の中にも道というか、トレイルが伸びているのだ。
途中、ベドウィンの家に立ち寄る。8000年以上も前から砂の上で生活してきた砂漠の民。ナツメヤシの固い枝で作られた「バラスティ」といわれる建物に暮している。実に簡素なたたずまいだが、容赦なく入り込もうとする砂をブロックしつつ、しかも通気性を確保してくれる。50℃を軽く超える砂漠の灼熱地獄にありながら、室内は思った以上に快適だ。砂の上にラグを敷いただけの居間に通され、オマーンコーヒーと甘いデーツの実で伝統的なもてなしを受ける。この家では親戚の2家族が一緒に暮らしている。ラクダを育て、それを売るのが主な収入源。値段はピンからキリまであるが、時には高級車が一台買えるほどの値がつくこともあるという。一見貧しい暮しに見えるが、実は政府から街の住まいも支給されているのだとか。彼らはそれを人に貸し、自ら好んで伝統的な砂上生活を送っている。
もちろん学校もあり、朝にはスクールバスがやってきて子どもたちを乗せていく。2家族の9人の子どもたちに将来は何になりたいか聞いてみた。「エンジニア」「パイロット」そして「サッカーの選手」。意外というか、当たり前というか。
近くでは、ラクダレースが行われていた。ベドウィンたちが自慢のラクダを持ち寄り、その乗りこなしのうまさを競う。子供から大人まで、大勢の人が集まっている。女性たちはきらびやかな衣装に身をつつみ、別の場所で固まって見物している。公の場では男女は同席しないのがイスラムの慣わしだ。それにしても賑やかに盛り上がっていて、ちょっとしたお祭りといった雰囲気だ。
特別にレーストラックがあるわけではなく、広々とした砂の上、人垣がそのままフェンスとなって即席の競技場となるようだ。レースは2頭ずつが同時に走るデュアルで、500mほどを一気に駆け抜ける。時速50km以上。ふだん緩慢な動作のラクダが、エンジンでも付けられたかのような勢いで砂を蹴散らしながら走っていくのだから驚かされる。騎手たちはいかにもりりしく誇らしげだ。ルールはよくわからないが、とにかくみんな興奮状態。砂とラクダがベドウィンのDNAを刺激するのだろうか。
ワヒバ砂漠では、キャンプも可能だ。訪れたのは何もない砂の上に建てられた「アル・ラハ・キャンプ」広々とした敷地に、長屋のように77室が連なるベドウィン式の「バラスティ」が建てられている。室内は3畳ほど。中には簡単なベッドも置かれている。さらに自家発電による照明と、トイレ&シャワー付き。キャンプサイトとしては上出来だ。といってもシャワーからは昼間自然に温められた水がチョロチョロと出るのみ。雨がほとんど降らないこの世界では水はとびきり貴重だ。この際、シャワーなどスキップすることに。すでに体中砂まみれの状態だが、水で流したところで明日になれば元の木阿弥。シャワーは街にあるゴージャスホテルに戻った時のお楽しみにとっておけばよい。
砂上に書いたメッセージを撮って友人にメール。これはかなりウケた(Photo:Hiroko Yoshizawa)
キャンプでのハイライトは、砂丘の上から眺めるサンセット。周りに、山脈のように連なる砂の丘に登り、思い思いに砂遊びを楽しみながら夕陽を待つ。果てしなく荒涼とした風景はまるでどこか遠い星の上にいるようでただひたすら歩きまわるだけでも、面白い。砂は驚くほど細かくて、小麦粉の上を歩いているような感触だ。日中は焼けつくような熱さだった表面も、夕方にはほどよく冷え、裸足で歩くと実に心地いい。ズブズブと足跡をつけても、友人へのメッセージを砂に落書きしても、ひとたび風が吹けば全て消え去る。その“残らなさ”がまた、気持ちいい。
太陽の傾きと共に、はちみつ色をしていた砂漠は、徐々に赤茶色へと変わっていく。風紋が美しい影を作り出し、そのコントラストが抽象画のような美しさを見せる。小高い丘の上に座り見渡すと、360度の砂漠の夕焼けが、はるかかなたまで続いている。巨大な太陽は、あたり一帯をオレンジ色に染め、西の地平線へ。そして、まるで大地に溶けていくようにゆらゆらと沈んでいく。他のどこでも見たことのない、壮大なサンセットだ。
夜は、他のキャンパーとともに火を囲み、ベドウィンが奏でる音楽に耳を傾ける。上空は満点の星空。砂の上に寝そべって見上げると、宇宙の中に浮いているような気分になる。あまりにも現実離れした幻想的な一夜。まさに魅惑のアラビアンナイトであった。
アラビアらしい優雅さに包まれたチェディ・ホテル。
(Photo:Hiroko Yoshizawa)
砂漠ツアーの後は、エキゾチックなリゾートライフを堪能するのもいい。マスカットや南部のサラーラなどの海岸には、ラクジュアリーなホテルが次々と登場している。
たとえばプライベート感あふれるブティックホテルの「チェディ」、広大なリゾートエリアに3つのタイプのホテルやモールなどが広がるシャングリラ系列の「バール・アルジサ・リゾート」、そしてスルタン所有で、要人の滞在にも使われる「アル・ブスタン・パレス」。 また2012年には、あのLVMH(ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー)が初めて手掛けるリゾートも、マスカットにオープンする予定だ。観光開発は独自文化の維持を軸に進められていることもあり、欧米系のホテルチェーンであっても、アラビアの建築様式やインテリアが多用され、オマーンらしさが強調されているのが特徴だ。
Al Raha Tourist Camp
アル・ラハ・ツーリスト・キャンプ
http://alrahaoman.com
1泊2日・オマーン料理の夕食、朝食つき。サンドボード、バギー、キャメルライドなど、様々なアトラクションの体験も可能。マスカットからの四駆車によるツアーが各種出ており、料金はひとり$300前後~。レンタカーで訪れる場合はGPSが必要。
Text: Hiroko Yoshizawa
Photo: Satoru Seki
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