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チーム・リアルディスカバリー、
世界最高峰の冒険レース「XPD」への挑戦〈中編〉

START

コース地図35枚!
ナビ含め
5種目をこなす総距離736km

レース当日、素晴らしい朝焼け。
若干風はあるものの、スタートとなるタスマニア・バーニーの海は比較的穏やかだった。
赤みを帯びていた空は徐々に青空へとかわり、軽くウォーミングアップする選手たちの姿が見られるようになった。海岸にはたくさんのシーカヤックが並べられ、準備に追われるチームの声が飛び交っていた。
リアルディスカバリー(以下、RD)のムードメーカー、小澤郷司(以下、小澤)は「昨日は十分なほど熟睡した」と余裕の笑顔。それは一緒にいた砂田芳子(以下、ナディ)も同じようだった。

準備をする選手たちを映像におさめるオフィシャルカメラマンたちがRDを撮り始めた。それに気がついた池田俊彦(以下、重鎮)が日本から持参した国旗を広げると、そこには仲間からのメッセージが書かれていた。
スタート種目であるシーカヤックを、チームの中で得意とするのはナディだ。練習時も彼女が中心となって他のメンバーを指導し、フォローしていた。そのせいか男性陣のワクワクした雰囲気とは裏腹に、どこか落ち着いて準備にかかっている様子。パドルを入念にチェックする。重鎮もシーカヤックの中に座り感触を確かめている。
一方、キャプテンの南大介(以下、南)は「SPOT」と呼ばれる発信機を受け取りに大会本部へ行っていた。この「SPOT」が発信するGPS信号により、レース中インターネットを通じてチームの位置を把握することができ、また選手は衛星経由でのSOS信号の発信も可能となる。
スタート時間が迫り、家族や応援に来ている人たちは一段高い場所に移動させられ、海岸には選手たちと大会関係者が残された。そこに主催者から今後のスケジュール、最後の注意事項の声が響く。RDの男性陣は軽くウォーミングアップしながら、ナディは仲間のメッセージが書かれた国旗を羽織りながら話を聞いていた。そしてそれぞれカヤックの元へ。RDの4名は円陣を組み、気合いを入れる。
いよいよ、主催者から「みんな、準備は良いか――十秒前」の合図。
言葉はないが、みんな微笑んでいる。
鳴り響く笛の音。
いよいよ、10日間に及ぶエクスペディションレースXPDのスタートだ。
約180艇ものシーカヤックが一斉に海へ漕ぎ出す様はかなりの迫力。その中を割り込んでいくのはなかなか難しい。RDは南と重鎮、小澤とナディが組んで海へと漕ぎだしていった。

XPD全コースマップ

スタート~CP2:シーカヤック17km
CP2~8:トレッキング20km
CP8~9:マウンテンバイク20km
CP9~10:ケービング0.5km
CP10~12:マウンテンバイク50km
CP12~19:トレッキング60km
CP19~20:カヤック(4人乗り)8km
CP20~22:カヤック(2人乗り)20km
CP22~29:マウンテンバイク105km
MID CAMP 6時間の休憩(強制)
CP29~36:トレッキング65km
CP36~41:マウンテンバイク150km
CP41~45:カヤック+カヤックを運びながらのトレッキング75km+12km
CP45~47:マウンテンバイク70km
CP47~52:海岸線を走るコーステアリングトレッキング25km
CP52~ゴール:マウンテンバイク35km

START→CP8

スタートはシーカヤック17km
初日からアクシデント発生!!

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リアルディスカバリー、シーカヤック、MTB、ケービングへ!
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エクスペディションレースはチームでの行動が原則なので、2艇のシーカヤックがあまり離れてはならない。チェックポイント(以下、CP)1を通過し漕ぎ進んでゆく選手たち。そんな中、強風により流されるチームが続出し始めていた。それでもトップチームはほぼ予定通りトランジションエリア(以下、TA)に姿を現した。最初に入ってきたのはニュージーランドのSeagateだった。
この時点でRDは風に流され、数時間遅れてTAに到着。トップ集団とかなり差が開いてしまっていた。ただ彼らにとってこのレースは順位ではなく、いかに4人揃って無事に完走するのかが重要であり、目的だ。焦ることはない。

TAでトレッキングの装備に着替えた選手達は、その街に用意されたポイントでショットガンによるクレイ射撃を5発打つ。すべて外すと10分のペナルティが科せられるが、射手となった南は3発命中し見事クリア。その後、Dial Rangesと呼ばれる保護地区を約20km走る。
「急いでは後半に負担がかかってしまう。焦ってチームのペースを上げすぎないように意識しながら先を進んでいった」と南は話す。
ところが一番体力のある小澤が足首を捻挫するアクシデントに見舞われる。しかも想像以上に痛みがひどい。その場で鎮痛剤を飲んで、「大丈夫!大丈夫」と笑顔を見せる小澤だが、やはり無理はできない。
多くのチームが日没前にトレッキングからマウンテンバイク(以下、MTB)に乗り換え走っていく中、RDがTAにたどり着いたのは日没後だった。

CP8→9→

暗闇の中で組み立てるMTB
ペース挽回を狙うが・・・

From Faust A.G. Channel on [YouTube]

狭く、暗い、洞窟もレースの舞台だ。
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MTBへのTA。明るいうちにたどり着いたチームはMTBを難なく組み立てていたが、真っ暗な闇の中、ヘッドライトを頼りに組み立てなければないRDは、想像以上に時間がかかってしまった。走りで遅れを挽回しようとするが、思いの外ナディのペースが上がらない。そこで足を捻挫している小澤が強靭さを見せ、アップダウンのある道のりを彼女を牽引しながら走る。その距離約20km。
たどり着いたCP9で一旦MTBを降り、ケービングセクションに突入。真夜中に洞窟内のCP10を探すのだ。観光用の洞窟だが、この日のために特別ルートが用意され、ほふく前進でなければ通れないような狭さ。なんとかクリアし、びしょ濡れになりながら洞窟を出たときは、一日で最も寒い時間帯になっていた。

そこでスタッフが用意していた焚き火でほんの少し暖をとることに。服を乾かすことはできなかったが、それでも暖をとれたことは体力温存につながった。そして再び約50kmのMTBセクションへ。ここでもなかなかスピードが上がらないナディを小澤が牽引し、ザックは二人分を南が担ぐ。
エクスペディションレースは、遅れるメンバーをいかにフォローし前に進むことができるかだ。先に行って遅いメンバーを待つのではなく、一緒に行動することが重要なのだ。

CP12→19

チーム力が問われる
難度の高いトレッキング

テントを飛び出したチームディスカバリーの目の前に、どこまでも広がる朝霧の 草原が広がっていた。








少しずつ問題を抱えながらも先を進むRD。
MTBを終え、次は60kmのトレッキング。
当初はこのセクションを36時間ほどかけて進む予定だったが、約51時間も要することになる。
総距離700km超といえば当然風景もいろいろだが、このセクションは特徴のないフラットな地形だったため、正確なナビゲーションが必要とされた。しかも雨が降り始め、強風が吹き、瞬く間に霧に視界を遮られてしまった。まったく前の見えないホワイトアウトの状況。さらに湿地帯だったため足下は常に濡れて白くふやけ、日も落ち、RDはこのまま移動するのは危険と判断し、2時間ほどビバークすることにした。
襲ってくるこれまでにない疲労感…。

チームの一人が目を覚ましたときはテントの外がほのかに明るくなっていた。
「寝過ぎた!」とテントを飛び出す選手たち。一転、そこには思わず声が出てしまうほど幻想的な風景が広がっていた。

その風景に助けられ、足取りが軽くなる。しかし昨夜、湿地帯を歩き続けているうちに足の皮が剥け始め、重傷になりつつあるメンバーがいた。重鎮だ。痛みを堪えながら先を進むが、その痛みから思考力もままならない状態となっていた。
長いこと歩き続けていたRD。そんな中で、ロープを使った懸垂下降はちょっとした楽しみになっていた。
ところが『懸垂下降はキャンセルになりました。この先には泳ぎもあり、とても寒いので日が昇るまで待つことを強く薦めます。岩場も滑るので注意してください』と書かれたメッセージがCPに掲げられていた。
楽しみを奪われ失意の3人。一方、足に痛みを抱えていた重鎮にとってはありがたいメッセージ。「足を休めたい」と重鎮。
少しでも遅れを取り戻して先に進みたいと考えるメンバーではあったが、重鎮の足のことを考えると無理は禁物。「日の出前に出発しよう」と、仮眠をとることにした。
わずか1時間の仮眠後、まだ暗いうちに懸垂下降を迂回し、川にたどり着くとその先はスイム。50mほどではあるが、水温10度以下の暗闇の状況下である。低体温症を避けるため、アンダーウェア以外を防水バッグに入れ泳ぐことに。濡れたウェアをその後着続けるよりも、乾いたウェアを温存する作戦だ。
4人無事に川を泳ぎわたると、その先には長いキャニオングが待っていた。このキャニオニングでは、川沿いのヤブの中を進むことが求められ、なかなかペースが上がらない。
そんな中、「(重鎮の足を考えると)歩くより川を泳いだ方がペースが上がるのでは」と小澤が提案した。ところが思いの外の浅瀬。しかも悲鳴を上げるほどの水の冷たさに、とても泳ぐどころではなかった。結局、重鎮は痛みを堪えてヤブこぎを強いられることとなる。
夜の寒さ、湿地帯の移動、一転、昼間は暑いくらいの日差しが照りつける。砂利道を歩くと、ほんの少しの靴の中のずれが足の痛みを思い起こさせる。小澤の初日に痛めた足首も腫れていた。
「一人でも欠けたらリタイアとなってしまう。とにかくこの旅(レース)を続けるために前に進もう」とメンバー各々がそう思い始めていた。

CP19→22

長い水上の移動
幻覚が彼らを襲う

予定していた時間を大幅に過ぎて、ようやくトレッキングを終えたRD。これからは足を使うことはほとんどない。とにかくひたすら漕ぐだけだ。
1艇の2人乗インフレータブル・カヤックになんと装備を抱えた4人が乗り込み、約8kmのマッキントッシュ湖を進む。湖には葉のない皮肌の白い枯れ木があちこちに現れ、幻想的な雰囲気を醸し出していた。これまで経験のない長丁場のレースと足の痛み、そして平均2時間程度の睡眠から重鎮が睡魔に襲われる。必至で漕ぐ3人に向かって時々幻覚を見たような言葉を発し始めていた。
「湖に浮かぶ木々に彫刻が彫ってあるぞ・・・」と重鎮。
そんな一つ一つの言葉に「それはないから」と南が笑い返す。 一旦接岸し、TAにて2人乗りのカヤックに乗り換える。暗闇の中、極寒の湖をさらに約20kmのパドリングが続く。そんな最中、小澤が大量の鼻血から貧血を起こすというアクシデントが発生した。途中のカヤック運搬区間にて止血の処置をする。一方、寒さと疲労から重鎮の幻覚症状も増して行く。
「ビーチに犬を連れて散歩する少年がいる・・・」
静寂な湖の上で様々な試練と戦うメンバーたちであった。
夜通し漕ぎ続けて早朝、パドリングの音は無風の美しい湖面を静かに波立たせながらCP22、ようやくパドリングセクションを終えた。
空を仰ぎ疲労困憊の重鎮は、カヌーから立つこともままならない状態となっていた。仲間に促され、ゆっくりとTAへと歩いていく。他の3名で重いカヤックを運ぶ。
「朝靄がもわ~っと凄くキレイだった」と小澤。「タスマニアの大自然を満喫って感じですよ」と疲れた表情を見せつつも笑顔のナディ。
日が昇り始め、この日は暑くなりそうな予感がした。
すっかり冷えてしまったカラダを暖め、濡れた服や装備を広げて干すことに。その合間に腹ごしらえだ。バナナを頬張りながら
「うまーい!!」
とまるで子どものように美味しそうに食べる小澤と南。さらに小澤はハンバーガー2つをあっという間にたいらげた。南は食べながら地図をチェックし、小澤やナディは必須装備品を確認する。一方、重鎮は多少なりとも体力が充電できたのか、チームに課された英文でのブログ書き込みを、右手の人差し指一本で必至にタイピングしていた。

CP22→29 & MID CAMP

寝ながら、幻覚を見ながら
泥地獄のMTB

次は105kmに及ぶMTBセクション。
走り出しはロード、すぐにシングルトラックからヒルクライム、そしてダブルトラックへと環境は変化する。重鎮にとってMTBは得意なので走りも快調だ。一方、カヌーで頑張ってきたナディはどうにもペースが上がらない。そこで小澤が再び牽引することに。
中盤はタイヤが泥に埋まったり、チェーンに泥が詰まったり、さながら原生林の中の泥地獄だ。
「このまま永遠抜け出せないのではないか、と不安になるほどの長い道のりだった」と南。眠りながら走るナディ、前夜と同様幻覚に陥る重鎮・・・。
廃線沿いの少々難儀なCPを探し出し、ようやく走りやすいロードセクションにでた。と思ったのもつかの間、小澤のMTBのチェーンが泥でつまり、思うように走れない。坂道でギアを変えようにも変速はするが、咬んでしまうのだ。途中からMTBを引きながら走り始める始末。すぐに異変に気がついた南が立ち止まり様子をチェックし、経験豊富な重鎮が適切なアドバイスを出して泥づまりを回復させる。
「重鎮、さすが!」
小澤の嬉しそうな声が束の間チームを和やかにするも、この時点で予定していた日数からすでに2日ほど遅れていた。

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リアルディスカバリー、トレッキング、カヤッキング、MTBへ!
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トップチームがゴール
RD、ミッドキャンプに到着

ここでようやく、全コースのおよそ半分に位置するミッドキャンプにたどり着いた。ここで選手達は6時間の強制休憩が課される。

RDがミッドキャンプに着いたその日、トップチームはゴールを間近に目指していた。優勝は接戦の末、北欧から出場していたThule Adventure Teamだった。直前までニュージーランドのSeagateがトップを進んでいたが、途中「SPOT」を忘れてきたことでペナルティが科せられ、ゴール一つ前のTAで4時間のウェイティングを強いられた。そしてその間にThule Adventure TeamとTeam Silvaに抜かれる形となったのだ。
このトップ3チームは他の後続チームからは群を抜く早さだ。

一方、ミッドキャンプのRDはコースである国立公園の植生保護のために、バイクや靴など装備品の洗浄を行っていた。タスマニアはオーストラリア国内でも特に植生保護の管理が厳格である。レース中に2度、この洗浄を行うことが義務づけられているのだ。ここで食事と1時間の睡眠をとった4人は次のコースタル・トレッキングに出発する。

この時点ではまだチームの中にリタイアという文字はなかった。ただ、重鎮の足はすでに大きなダメージを受けていたため、必要なケアを施し、チームの中で前進する意思を確認して、後半戦のスタートとなるトレッキング65kmに挑むことになった。

Data

XPD Tasmania 
Adventure Racing World Championships 2011


公式サイト
http://www.trackmelive.com.au/xpd2011/

リアルディスカバリーのメンバー

右から、南大介(キャプテン)、34歳、アドベンチャーレース歴8年。
重鎮(池田俊彦)、58歳、アドベンチャーレース歴14年。
ナディ(砂田芳子)、3x歳、アドベンチャーレース歴6年。
小澤郷司、35歳、アドベンチャーレース歴9年。

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