パリからおよそクルマで2時間。市内からオートルートを西へ向かうと、ル・マン市に到着する。フランスの中でも比較的大きなここは、歴史と伝統に満ちた、旅人には興味深い街だ。シテ・プランタジュネと呼ばれる旧市街地やサン=ジュリアン・デュ・マン大聖堂は、そのまま中世の空気を運んでくれる。
そんなル・マン市にはブガッティサーキットの一部と公道を使ったサルテサーキットがある。ご存知のように、世界三大レースのひとつ“ル・マン24時間耐久レース”が行われる場所だ。クルマ好きなら一度はその名を耳にしたこともあることだろう。
1923年にスタートしたこのレースにはこれまでたくさんの名だたるレーシングカーが走ってきた。戦前のブガッティやベントレーから70年代のプロトタイプレーシングカーまで、まさにその時代毎のトップモデルが競い合ってきたのだ。
「ル・マン クラシック」はそこで活躍したクルマが実際に観衆の前に現れ、サーキットを駆け抜けるイベント。ヴィンテージカーと呼ばれる多くのマシンが熱いバトルを繰り広げるのである。
レースウィークとなる7月のその週は、ヨーロッパからたくさんのカーガイが集まる。というのも、このイベントは観戦だけでなく、各カークラブが走行会なども同時に行うからだ。
また、期間中会場では様々な催し物が行われる。マクラーレンF1GTRのような超が付くほど希少なスーパーカー&ヴィンテージカーのオークションや、ヨーロッパでメジャーな自動車クラブのミーティング、それからヴィレッジと呼ばれる一角には様々なショップが軒を重ねている。フェラーリ、アストンマーティン、ランボルギーニ、ポルシェ、アバルトのオフィシャルショップが一同に会するのだから見応えがある。
自動車メーカーのブースとしてはBMWがアートカーを展示、メルセデスが伝説のレーシングカー300SLとともに新型のSLS AMG(試乗記事はコチラ)をお披露目していた。
話は少しさかのぼって5月、そんな世界的なイベントに参加するため、日本のファウストたちも準備を開始。戦闘用マシンはファウストの1人、小嶋禎一が営む兵庫のスーパーカーショップ、スクーデリア・フォルムから神戸港へ運ばれ、そこから貨物船でル・マンへと送り出した。レース当日のおよそ二ヶ月前になる。事前のレジストレーション(登録)からすでにレースははじまっている、といったところだろう。クルマのセッティングからレギュレーションを把握するところまで、やるべきことは山ほどあるのだ。
メンバーは、1963年型アルピーヌM63の加藤仁、藤田一夫、見崎清志(以上3名)、1967年型アバルト1000SPの黒川忠是、それと1957年型アルファロメオ・ジュリエッタSVZの小嶋、堀主知ロバート(以上2名)。小嶋は3度目の出場。黒川、加藤、堀は2度目。見崎も2度目だが、元トヨタワークスドライバーである彼は、91年に本家ル・マン24時間耐久レースに、プライベートチーム「フェデコ」からレーシングカーのスパイスで出場。初めて日本人3人でクラス優勝した経験を持つ猛者だ。
写真はエントリーした競技車とチーム関係者、メディアを招いたガラパーティの様子。中世に建てられた修道院の中庭は雰囲気たっぷり。
さて、レースウィークは週の頭からじわじわと盛り上がっていく。実際にサーキットがオープンされるのは水曜日から。このときから競技者のレジストレーションチェックがはじまり、翌日から車検が行われる。
ちなみに、レギュレーションのひとつにハンディキャップがあり、同じグリッド(年代によるカテゴライズ)でも排気量の違いでレース終了後ポイントが加算される。例えばグリッド3の小嶋・堀チームのアルファロメオ・ジュリエッタSVZは1300ccだが、同年代のジャガーEタイプは3800cc、アストンマーティンDB4GTは3700ccというビッグエンジンを搭載している。なので、もしSVZがこれらに大差ない状態でチェッカーを受ければ、ポイントで上位に食い込める、という具合だ。
雰囲気が盛り上がって来るのはサーキットばかりではない。大会前日、木曜日の夜にはエントリーした競技者とチーム関係者、メディアを招待したガラパーティが行われた。ル・マン市郊外に中世から残る古い修道院の庭で行われたカクテル式のウェルカムパーティは、まさに古きよき時代の社交場のよう。緑の芝生にはバーカウンターが設けられ、さらに生演奏が楽しい雰囲気をもり立ててくれる。
日が暮れると、今度は修道院の中へ移動。高い天井とそこに飾られたシャンデリア、これまたタイムスリップでもしたような空間が広がっている。そして至極のディナー。おいしいワイン片手に人々の笑顔と語らいは尽きなかった……。
すべてのドライバーが姿を現すドライバーズミーティング。これほどまで大きなスケールは他の大会ではなかなか見られない。
本選を前日に控えた金曜日になると、チームは少し慌ただしくなってきた。レギュレーションを確認するドライバーズミーティングと練習走行が行われるからだ。
ここがマシンの最終チェック。各チームは昨日までとは打って変わって真剣な眼差しとなる。オイルは足りているか、計器類は作動しているか、アイドリングにバラツキはないか。目、耳、手、足、カラダのあらゆる部分を使って、マシンと対話する。「そこ、もう一度チェックした方がいいんじゃないか?」「わかってる、いまやってるよ!」といった少し声を荒げた会話がパドック内のあちらこちらで交わされはじめた。この長丁場において、練習走行の重要さを誰もが感じている……。
ライバルの調子も気になるところだが、このときサーキット内の気温はほぼ40度に達していた。
日中の照り返しは強く、路面温度は計り知れない。水温は? 油温は? タイヤは? はたして何十年の時を経て存在するマシンは、この暑さに耐えられるのか?
本選は明日。土曜日午後4時までのカウントダウンのはじまりだ……。
(現地の大会パンフレットより抜粋)
(C)Sport auto - LE MAGAZINE OFFICIEL LE MANS CLASSIC 2010 -
Text:Tatsuya Kushima(Motor journalist)
Photos:Satoshi Noma
2010/09/02
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