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波乱の中国史と、過酷な運命を越えてきた
孤高の女性アーティスト
 

 2009年11月、表参道のスパイラルガーデンに、色鮮やかに美しい花の写真が並びました。これは、中国を代表するアーティスト王小慧(ワン・シャオホイ)の作品。今回、初来日を果たした彼女が展覧会を開催し、ファウスト会員たちをはじめ各界のエグゼクティヴたちが招待されました。
 会場に現れた王女史は、柔らかな印象を持つ美しい女性。「今回は個展というよりも、写真を持って友人に会いに来るような気分で来日しました。プライベートパーティなので、より身近にお互いを知り合う機会ができてとてもうれしいです。これを一つの縁として、今後も友人としてお付き合いいただき、日本でも活動をしていきたいと思っています」と、笑顔で語ってくれました。



王女史が今回発表した、花をモチーフにした作品は「花之灵・性 The Eros of Flowers (花の霊・性)」という一連のタイトルが付けられている。

 そんな彼女の中国における人気は、非常にカリスマ的。自伝『My Visual Diary(私のビジュアル日記)』はベストセラーになり、テレビや雑誌、新聞にも連日取り上げられています。また、彼女の名前を冠した「Xiaohui Wang Art Center」が設立されたり、彼女がドイツに留学していたことからBMW、Volkswagenなどドイツ企業とのコラボレーション作品なども制作してきました。ドイツと中国の大型文化交流イベントを主催したときには、ドイツ政府から「独中友好賞」を表彰されるなど、まさに中国ではトップアーティストとして活躍しています。
 しかし、彼女が現在に至るまでの人生は波乱万丈のものでした。少女時代は、あの文化大革命の真っただ中。エンジニアとして活躍していた父は強制労働に送られ、音楽学院の教師だった母は職を失い、社会の低階層へと転落していきました。しかし、彼女はその苦境を乗り越え、建築デザイン分野ではトップレベルを誇る上海同済大学に入学します。そこで建築デザイナーとしての頭角を現し、上海のレストランの設計を手掛け、その才能を高く評価されました。そして、ドイツへ留学したのです。
 当初は西洋文化の中で迷い、困惑したものの、新たに映画製作を手掛けるなどアーティストとしても活躍の幅を広げました。
順風満帆に思われた人生でしたが、再び彼女の人生には悲しみが訪れます。
 親友であり彼女に想いを寄せていたドイツ人男性が、彼女のアパートで自殺してしまいます。彼女の悲劇はそれだけでは終わりません。学生時代に結婚した中国人の夫とともにプラハへ向かう途中、自動車事故に遭うのです。彼女の夫は即死。彼女自身も瀕死の重傷を負いました。
 こうした体験を通して「生、死、愛」は、彼女にとっての最大のテーマとなったのです。今回展示された「花の霊・性」もまた、「生、死、愛」がコンセプト。「この写真を見ると、人によっては『性』をより強くイメージされるみたいです。でも私は特にそれを意識してはいません。花の生命そのものを写そうとした結果、こういう表現になったのですから。いわば、性と生は切っても切り離せないものです。命を表現するのに花を選んだのは、その命が短く美しいから。その命に心を重ねてみることができるでしょう」

命を表現するために、花にフォーカスする王女史。この表現方法に到達したのは、彼女が過酷な人生を生きてきたからこそ。

 今回は写真展示でしたが、彼女の作品は建築、映画などにもおよび、その表現の方法は幅広いものです。しかし、彼女にとって表現の方法はさほど重要なことではありません。「テーマが先にあるのです。そのテーマを表現するうえで、一番適した方法を選んでいるだけ。色々な国を旅して、西洋も東洋も、写真も映画も彫刻も全ての方法は自由。それを私は『無辺界』と言っています」。
 最近では、2010年5月~10月に開かれる上海万博のパビリオン建設デザインコンペにおいて見事に勝ち抜いた王女史。『City Civilization』と名付けられたパビリオンがどんな形で我々を驚かせてくれるか、今から完成が待ち遠しいかぎりです。
 苦境を乗り越え、ジャンルを決めず、限界を決めないという彼女の精神はファウスト会員の皆様にとっても非常に共感できるものではないでしょうか。彼女はまさに今、世界で注目すべきアーティストの一人なのです。

 

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王小慧
Xiaohui Wang
写真家、映像作家、建築家、文筆家。1986年、上海同済大学大学院建築学科卒業後、ドイツへ留学。その後も作家活動の傍ら、同済大学やミュンヘンのUniversity of Technologyで教鞭をとるなど精力的に活動。現在までに、数多くの個展開催や30冊以上の著書執筆を手がけ、特に中国国内ではカリスマ的アーティストとして大きな人気を誇っている。

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王小慧オフィシャルHP
http://www.xiaohuiwang.com/

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