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Shinichi Ito

伊藤慎一

プロウイングスーツ・パイロット

Profile

身にまとうはスーツ1枚!
時速363キロ、距離23キロを飛ぶ鳥人

ファウストA.G.にとっての「空飛ぶ男」といえば、イブ・ロッシーがお馴染みだが、日本にも空飛ぶ男がいるのをご存知だろうか? 彼の名は伊藤慎一。ジェットエンジンではなく、ムササビのような特殊スーツに身を纏い、「ウイングスーツフライング」という名のスポーツで日本唯一のプロを名乗る男だ。この5月に飛行距離23.1キロと滑空時の最高時速363キロで見事ギネス記録に認定され、まさに世界が認める空飛ぶ男となった。しかし、「ウイングスーツフライング」というスポーツ自体、一般的にはまだまだ知られていないのも事実。そもそもどうやって空を飛ぶのだろうか? そんな素朴な疑問を引っ提げて、調布にある彼の事務所をたずねた。

人生を変えたスカイダイビング

伊藤氏の第一印象は肩から腕にかけて筋肉隆々で、その体つきは、まるで体操や陸上選手を思わせる。「すごい筋肉ですね」と開口一番たずねると、彼は笑いながら「特別なことはしてないですよ。腕立て伏せなどの筋トレをやる程度ですから(笑)。ただ、高校時代から趣味でモトクロスをやっていて、背筋と脚力をよく使っていますね。じつはウイングスーツフライングも同じ筋肉を使います。きっと若いうちから上半身と下半身が自然に鍛えられていたのかもしれませんね」



飛行中は、宙返りなど自由な動きが可能だという。

とにかく飛んだり跳ねたりが大好きな子供だった。現在、伊藤氏が空にまつわるスポーツに関わっているのも、至極当然の話かもしれないが、そもそもきっかけとなったのは、80年代にアメリカをはじめ欧米諸国で一大ブームになったスカイダイビングだ。空を飛ぶことを夢見る学生時代の彼は1988年に人生初のスカイダビングを体験する。
「当時、アメリカに兄が留学中で遊びに行ったときに、近所にたまたまスカイダイビングの施設が完成したばかりでした。これは行かなきゃと迷わず参加したのがきっかけです」
その日以来、彼の人生はスカイダイビングとともにあり累計で1,600回ものダイブを重ねた。2000年頃にはウイングスーツがアメリカで市販化され、大々的なプロモーションがスタートしたが、伊藤自身はあまり興味が湧かなかったと当時を振り返る。その理由を「う~ん。あの頃はまだウイングスーツ自体がどんなものか、よく分からなかったし(笑)」と語るが、それから7年がたち、彼の気持ちに変化がおとずれる。
「結局20年間、スカイダイビングをやってきて、ひと通りのことを経験できたのが大きかったと思います。そろそろ新しい何かに挑戦したい時期だったんですね」

ギネス記録達成の裏側

彼は、すぐにフィンランドから市販のウイングスーツを購入し、初ダイブを試みた。今から4年前のことだ。ちなみにウイングスーツフライングに挑戦するには、スカイダイビングの飛行カウントが200回以上あることと、インストラクターの指導を受けてからでないと許可されない。これは世界基準のルールなのだそうだ。伊藤氏は、すでに200回をクリアしていたので問題なかった。
初めてウイングスーツフラングを体験した感想は?
「散々でしたね。結局、身体に筋力がないから前へ滑空しない。ウイングスーツを着たまま、スカイダイビングのように落下している状態でした(笑)」
スカイダイビングで経験を積んでいた伊藤氏にとっては思わぬ屈辱だった。しかし同時に、体験したことのない感触を味わうことができたことは喜びでもあった。その後、数回のトレーニングで彼は、一気にウイングスーツフライングの醍醐味に魅せられてしまう。
のちの2009年11月にウイングスーツ・最多人数フォーメーション世界記録を樹立(米国公式記録認定)すると、毎年のように新しい記録を達成。昨秋はギネス記録が認定され、今年の5月には、その自己記録を自ら更新する快挙まで成し遂げた。
それでは記録について説明しておこう。
計測場所はカリフォルニア。通常のウイングスーツフライングは、プロペラ機やヘリで上昇し、3〜4キロの高度から滑空するのだが、ギネス記録挑戦には高度10キロの上空からの滑空となった。これはジャンボ旅客機が飛んでいる高さと同じ。マイナス40〜50℃の世界で、生物がまったく存在しない環境だという。そんな中を彼は酸素マスクをかぶり完全防備でダイブし、最高時速363キロものスピードで滑空するのだ。
「まさに横に飛んでいる感覚。つまりミサイルと同じ状態ですね。視界は良好です。以前、スカイダイビングでも同じくらいの高度から数回ダイブした経験があるので、酸素マスクをしたり、寒いところから飛び下りる感覚を知っていたので助かりました」
結果、認定されたギネス記録は距離が23.1キロ。最高時速の363キロはF1のそれと同じくらい。これを生身とウィングスーツ1枚で成し遂げたのだから、文字通り「超人」、いや「鳥人」と言うほかはない。
「高度10キロからだと非公認で滞空時間は6分くらいなんですが、目指すのは8分の世界です」

2009年には、ウイングスーツ・最多人数フォーメーションで世界記録(米国公式記録認定)を達成。
送られてきたギネスの世界記録認定証。

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ウイングスーツフライングの魅力を広めたい

ウイングスーツフライングは、滑空してとんでいる感覚。ベテランのスカイダイバーたちは誰もが、その未知なる経験に感動するという。

超高度からのウイングスーツフライングを行うには、大きなリスクを伴う。酸素マスクが数秒ずれただけですぐに気を失ってしまうし、寒さで手元が動かなくなればパラシュートは作動しなくなる。また、身体をフラットに保つ筋力がないと風圧に負けてバランスを崩しかねない。人によっては、地上に降りれば脱水症状に見舞われることもあり、手足のしびれはしばらく残る。それでも代え難い「何か」があるのだと伊藤氏は笑みを浮かべる。
現在、日本でウイングスーツを個人所有し定期的に飛んでいる人は十数人。スカイダイビングを定期的にする人ですら約300人だから、ウイングスーツフライングの魅力も、まだまだ伝えてきれていないというのが現状だろう。
「たまにウイングスーツフライングを始めたくていきなりスーツを購入しようするお客さんもいます。でも、買ってもスカイダイビングの経験がないと飛行できないのが現実です。ベースはスカイダイビングで学んでからが鉄則ですから」
アジア人で初めて世界トップのウイングスーツメーカーBIRDMAN社公認のインストラクターとなった伊藤氏は、パイオニアとしての厳しい視線も忘れていない。
「歴史的に見れば、スカイダイビングよりもウイングスーツのほうが起源は古いんです。パラシュートの時代からウイングスーツフライングの発想は存在していて、当時は木の棒や鉄の棒を使って背中に羽根のような生地を付けてトライしていたんですね。見た目はまさに鳥なので、イブ・ロッシーさんのスタイルにも近いものがありますね。当時はスカイダイビングの技術は完成していなかったし、パラシュートの性能も良くなく、空中でコントロールが効かなくなると、ほとんどのダイバーはそのまま命を落としていました」
フランスのスカイダイバーで“空の神様”の異名をもつ、パトリック・デ・ガヤルドン氏が90年代に発表した自作のウイングスーツは、現在のウイングスーツの原型とも言われる。伊藤氏にとってパトリック氏は尊敬する偉人だが、12年前に飛行実験中の事故で他界している。
「前例もなく手探りの状態で飛んでいた先人たち。彼らが残してくれた貴重なデータのうえに、僕たちは大空を謳歌しているんですよね。志し半ばで逝った彼らのことを考えれば、まだまだこれからです」
今年で46歳という伊藤氏。その屈強な体つきを見る限り「衰え」とは無縁のようだ。
「アメリカには60歳過ぎて、スカイダイビングを楽しんでいる先輩もいますからね。飛べる限り、これからも挑戦し続けます」
今秋ふたたび予定している、ギネス挑戦が今から楽しみだ――。

 

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 これが、ウイングスーツだ!

ファイヤーバード R ウイングスーツ

BIRDMAN社製 103,950円(税込)

ウイングスーツは、現在フィンランド、アメリカ、フランス、クロアチアなどで生産されている。これはフィンランドのBIRDMAN社が開発した、世界初のオールランド ウイングスーツ。ウインドトンネルで実験され、最大限のハイパフォーマンスを実現。ウイングスーツフライの入門者から中級者に最適なモデル。前後にエアーインレットがあり、バックフライも可能。ウイングスーツ自体は風をまったく通さない作りになっている。サイズはS,ME,M,L,XLから選択。 カラーは1色のみ。写真左がスーツ表。

ブレイドⅡ ウイングスーツ

BIRDMAN社製 176,400円(税込)

BIRDMAN社が10年の歳月をかけて開発した、BLADEの新型改良バージョン。伊藤氏の御用達仕様にもなっている、上級者向けの最新のハイパフォーマンスウイングスーツ。CAD(コンピューター アシステット デザイン)ウイングを持ち、最大限のハイパフォーマンスを実現。前後にエアーインレットを採用。幅広い飛行スピードと滑空率をもつウイングスーツ。 サイズはカスタムメイドのみ 。カラーもオーダーフォームから選択。 写真左がスーツ表。

伊藤氏が運営する日本で唯一ウィングスーツが買えるショップ

リスクコントロール

調布の実際の店舗にいけばウィングスーツの現物も手に取れます。
東京都調布市小島町2-45-7-3F
問/risk@rondo.plala.or.jp

ウェブショップ http://item.rakuten.co.jp/risk/c/0000000641/

Data

伊藤慎一オフィシャルサイト
http://www.wingsuits.jp/

伊藤慎一オフィシャルブログ
http://ameblo.jp/wingsuits/

Profile

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Shinichi Ito
伊藤慎一

プロウイングスーツ・パイロット


1964年東京生まれ。米国にて1988年初降下。合計降下回数は1,600回以上、米国パラシュート協会永久会員。安全&訓練アドバイザー。米国パラシュート協会のSLインストラクター、タンデムインストラクター資格。アジア人で初めて世界トップのウイングスーツメーカーBIRDMAN社(BMI)及びPhoenix Fly社(PFI)公認ウングスーツインストラクター資格を取得。株式会社リスクコントロール 代表取締役を務める。

【これまでの主な記録】
2011年5月ウイングスーツ・最高飛行速度 ギネス世界記録樹立 時速363km
2011年5月ウイングスーツ・最長飛行距離 ギネス世界記録樹立 23.1km(自己記録更新)
2010年9月ウイングスーツ・最長飛行距離 ギネス世界記録樹立 16.4km
2009年9月ウイングスーツ・最長飛行記録 世界第2位記録樹立
2009年10月ウイングスーツ・最多人数フォーメーション・オーストラリア記録樹立
2009年10月ウイングスーツ・最多人数フォーメーションPOPS世界記録樹立
2009年11月ウイングスーツ・最多人数フォーメーション世界記録樹立(米国公式記録認定)

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